義肢・装具学

 

常歩行の立脚終期(Push-Off)では、股関節軸と足関節軸を結ぶ線(TKA線)は重直に対して15後方にある。

しかし実際には、骨盤の3~4の前傾と膝関節の屈曲および足関節の底屈が起こっているため、股関節は5程度伸展しているに過ぎない。

これに対し、義足では立脚期に膝継手を屈曲することができないため、純粋な股関節の伸展と骨盤の前傾でこの15を確保する必要がある。

過去の研究では、歩行時に約10の骨盤前傾を伴い腰椎が前弯しても特に障害がないことが明らかにされている。そこで、残り5を股関節伸展で補えば、垂直に対するTKA線の15が確保できることになる。股関節5伸展を確保できない屈曲拘縮のある例では屈曲拘縮位よりソケットを+5屈曲位(初期屈曲角) に設定し、伸展角度を確保する。

ソケットの初期屈曲角が過大な場合、立脚終期に義足が過度に後方へ動くので、非義足側は大きく前へ出る。これに対し、義足側は既に股関節屈曲位にあるため、屈曲方向への振出し角度が小さくなるので前へ出にくい。

義足側の立脚期に腰椎前弯が増強する、または膝折れ感がある場合は、原因として初期屈曲角が不足していることが考えられる。股関節伸展角度や伸展力が不足するためである。

 

 

(初期屈曲角)   下腿義足   大腿義足

歩幅小(義足)   不足           過大

=健側は大きい

腰椎前弯増強                     不足

膝折れ感          過大           不足

反張膝              不足                   

つま先こする  不足

義足長く感じる不足

ターミナルインパクト       不足

 

※つま先があがる=角度に問題がある

※つま先があがらない=ソケットに問題がある

 

麻痺側の反張膝関節(歩容改善アプローチ)

麻痺側総腓骨神経に対する電気刺激

体幹垂直位での麻痺側下肢への荷重練習

スウェーデン式膝装具(3点固定)

(内反尖足には対応しない)

底屈制限足継手付き短下肢装具

踵への補高
足部への補高ー尖足

底屈制限足継手付き短下肢装具(膝折れ)

背屈角度が大きい

底屈制動が強い

底屈制限があるex. 反底屈0度固定
底屈制限足継手付き短下肢装具(立脚中~後期の反張膝)

背屈制動が強い
①渡邊英夫,他:腦卒中の下肢装具一病態に対応した装具の選択法,第3版,医学書院, 2016,pp 78-79,pp 84-85, pp 176-177.②日本義肢装具学会(監): 装具学,第4版,医歯薬出版,2013,pp 32-33,pp 71-84. 3日本整形外科学会,他(監):義肢装具のチェックポイント,第8版,医学書院,2014, pp 222-227.4佐伯覚(編):義肢装具学,標準理学療法学,作業療法学、言語聽覚障害学別巻,医学書院,2018, pp 37-44, pp 48-52.

 

Brunnstrom法ステージで下肢Ⅲでは、 痙性が強く、足部では内反尖足が観察される。 歩行時の尖足は反張膝の原因となる。反張膝防止のためにクレンザック継手、 ダブルクレンザック継手または底屈制限足継手を使用する。 ダブルクレンザック継手のバネは底屈·背屈を制動し、反対方向の動きを補助する。またダブルクレンザック継手のロッドは底屈·背屈の動きを制限する。 ダブルクレンザック足継手付短下肢装具を用いて、足継手を後方制動(後方制限)がかかるように設定し、底屈角度を制限することで歩容の改善を図る。足継手の現在の可動範囲は、 背屈30°~底屈 10°であるのを背屈20°~底屈-5°に調整するのであれば、 背屈、 底屈ともに制限を大きくすることになる。背屈の制限を大きくする(背屈範囲を小さくする) には前方のロッドを下げる必要があり、底屈の制限を大きくする (底屈範囲を小さくする)には後方のロッドを下げる必要があ
る。したがって、前後のロッドの調整は、 両方とも押し下げることになる。

 

1、3.月形しんは靴の踵部分にあって靴の型くずれを防ぐほか、足を入れやすくし踵がずれないようにする役割を持つ。通常、踵前面から0.5~1.0 cm前方までの長さがある。
2. 月形しんは踵をくるむ形のやや固い素材でできたパーツである。
4. O脚や内反足には、外側が長い月形しんを用いて踵骨が外側へ偏位することを抑える。

5. X脚や前足部回内変形および外反扁平足では、内側が長い月形しんを用いて舟状骨近辺が内側へ偏位することを抑える

外反扁平足は、特に、靭帯の機能低下後脛骨筋の機能不全により、

内側縦アーチの低下踵部の外反

前足部外転が生じている状態である。

トーマスヒール 

舟状骨パッド

内側フレアヒール

内側ウェッジヒール

内側月型しんの延長

などを組み合わせ、足部外反の矯正と内側縦アーチの支持を行う。

3: Thomas ヒールは内側縦アーチの支持性増強を目的に、踵内側前面を舟状骨直下まで1.5 cm延長したヒールである。

高田治実(監修)、豊田輝,他(編) : PT.OTビジュアルテキスト石川 朗(総編集)、 佐竹將宏(責任編集): 15 レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 裝具学、中山書店、 p.44-45. 川村次郎,他(編):義肢裝具学、第4版、医学書院、義肢装具学、羊土社、p.353-354.p. 264

 

1、4:メタタルザルバーやロッカーバーは、中足骨頭の免荷や歩行時の踏み返しをスムーズにするために用いる。

2:SACH ヒールは、踵接地時の衝撃緩衝作用や踵骨底部疼痛部位の免荷が期待できるので、踵骨棘や足関節拘縮などで用いられる。

5:外側ウェッジヒールは内反尖足や凹足に対応する。

シャルコーマリートゥースー凹足

①日本義肢装具学会(監): 装具学、 第4版, 医歯薬出版。2013.pp 23-33.
②佐伯覚 (編) :義肢装具学,標準理学療法学. 作業療法学·言語聴覚障害学 別巻, 医学書院,2018, pp 65-67.

③石川朗(総編):装具学, 15 レクチャーシリーズ理学療法テキスト,中山書店, 2011, pp 41-51.

 

加藤の夫がコック(になった)

下垂手ー橈骨神経麻痺

オッペンハイマー

トーマス

ガレンガー

コックアップ

 

わしゃ、虫コナー(ず)

 

鷲手ー尺骨神経麻痺

中様筋カフ

コイル式

ナックルベンダー

 

1. 手背屈保持装具はコックアップ装具であり、手関節の良肢位保持を目的とする。橈骨神経麻痺による下垂手の他、橈骨遠位端骨折や舟状骨骨折、手の靭帯再建術後などに処方される。手根骨、遠位橈尺閃節、三角繊維軟骨複合体損傷(TFCC) に関する研究の進歩とともにこれらに対する治療の機会が増えている。

2. 短対立装具は、正中神経麻庫(低位型)に適応があり母指を他の4指と対立位に保持し、つまみ動作を可能にする静的装具である。短対立装具は手関節の運動は制限しない。

3. ナックルベンダーは、尺骨神経麻痺によるMP関節の過伸展を防止し、屈曲を補助することを主目的とする。

4. Capener スプリントは、PIP 関節に対する指装具であり、ボタン穴変形などによるPIP 関節の屈曲拘縮変形の可動域を増大させる目的を持つダイナミックスプリントである。

5. Thomas 型懸垂装具は、橈骨神経麻痺に対する装具であり、母指を外転位、MP関節を伸展位、手関節を中間位もしくは軽度背屈位で保持するとともにMP関節の伸展補助を主目的とする。

(参考文献 日本義胶装具学学会(監修) : 装具学、第4版、医歯薬出版、p. 160-179. 高田治実(監修)、豊田 輝,他(編):PT.OT ビジュアルテキスト 義肢、装具学、羊土社、p. 318-327, 346-352)