膝OA・TKA

 

膝OAに関する大規模な疫学研究Research on Osteoarthritis Against Disability(ROAD)プロジェクトでは、 K-L分類(図1)によるgradeⅡ以上の膝OAは2,400万人、50歳以上で痛みを伴っている膝OA患者は820万人と推計され、予想以上に多いことが明らかになりました。

1. 変形性膝関節症の場合、エックス線写真からその病期を分類するのはKellgren-Lawrence分類である。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200201081232j:image

2. 変形性膝関節症は、関節軟骨の変性,摩耗を基盤とした非炎症性の疾患である。なお、関節リウマチ、感染性関節炎などが膝を好発部位に含む炎症性疾患とされる。
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3. 整形外科的疾患での有病率は腰痛に次いで第2位であると報告されています。中高年の女性に多く、50歳以降になると患者の数が増加していきます。

3. 変形性膝関節症の大部分は内側型(内側の大腿脛骨関節が侵される病態)であり、病変が進行すると膝関節届曲拘縮、内反変形が増強する。

4. 変形性膝関節症の初期には、歩き始めや座位からの立ち上がり時に疼痛を生じやすい。歩行時、階段昇段時などにも持続的な疼痛を生じるのは、進行した後である。
4. 変形性膝関節症では、O脚方向への動揺性が増すことが多い。この動揺性の原因には、十字靭帯や側副靭帯、冠状靭帯などの延長や弛緩がある。

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5. 治療は保存的治療が主である。ただし、症状の重症度によっては、観血的治療が行われる。

5. 変形性膝関節症のうち、外傷、代謝性疾患、先天性異常など明確な原因に起因する病態は二次性であり、明らかな原因が認められない病態が一次性に分類される。

【一次性膝OAの危険因子】

遺伝子、加齢、女性、肥満、筋力低下、膝への負担が大きい習慣、下肢変形など。

【二次性膝OAの危険因子】

骨折、捻挫や軟骨の損傷、靱帯、半月板損傷、脱臼、骨壊死などの外傷性疾患

関節リウマチや化膿性関節炎による炎症性、痛風などの代謝性疾患

5. 本邦では、圧倒的に一次性が多い。

膝OAは、関節軟骨だけでなく、軟骨下骨、靱帯、関節包、滑膜、関節周囲筋など関節全体に影響を及ぼします。疼痛の原因は、炎症やこれらの組織への機械的刺激により起こります。関節痛は、滑膜の虚血、滑液包炎、腱炎、骨髄内圧の上昇、関節内圧の上昇、軟骨下骨の微小骨折、靱帯の伸展、骨棘形成時の骨膜の伸張などが考えられます。
また、膝痛の複雑性として、疼痛はX線像とは必ずしも関係しない、心理的要素、社会的要素が疼痛に影響を与える、病期とは関係しないが進行すれば重度、持続痛を持つ群は疼痛が重度、病期に特異的な疼痛はないと報告しています。
いずれにしても、生活に支障をきたす疼痛は、廃用性症候群を誘発し、さらに機能低下を助長することから、膝OAに対する疼痛管理は大変重要です。

関節軟骨の性状は、力学的要因に影響を受けやすく、軟骨表面に局所的なメカニカルストレスを受けると膝OAの悪化につながることが報告されています。
膝OAの内反変形の増加は関節裂隙の狭小化を促進させ、軟骨の変性を助長します。したがって、膝関節を内反させる力を減少させることがリハビリテーションにとって重要となります。

内反変形の度合いは、通常、大腿脛骨角(femoro-tibial angle:FTA)で計測します。X線像で大腿骨軸と脛骨軸のなす角を求めます。正常の場合、およそ170〜180°程度です。生体では、上前腸骨棘と膝蓋骨中心を結ぶ線と膝蓋骨中心と足関節中心を結ぶ線のなす角を求めます。
ミクリッツ線は、大腿骨頭の中心から足関節中心を結んだ線で下肢の荷重線を表します。正常のFTAの場合、およそ膝の中心を通ります。
FTA185°以上の内反膝の場合、FTAが大きいほどミクリッツ線は膝の内方を通ることになります。この場合、膝を内反させる力は強まり、さらに膝関節における荷重は膝関節内側部に偏り、荷重を受ける部分は内側部に集中します(図4)。
また、内反膝が強いと歩行立脚時(荷重時)にさらに強く膝が外方に移動するラテラルスラストが起こり、内側部への過重負荷は高まってしまいます(図5)。
さらに、膝OAの患者は膝が完全に伸びない屈曲拘縮が多く認められます。屈曲拘縮は歩行時、膝内反力を高めることが知られています。

片足立ちをすると膝関節にはおよそ体重の3倍ほどの力がかかります。歩行や階段昇降ではさらに多くの力がかかり、体重の3〜5倍ほどになります。内反膝が高度のほど、力を受ける面は膝関節内側部のみとなり単位面積あたりの荷重量は増大してしまいます。このことは膝OAの悪化を助長します。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200201082859j:image

② 歩行時の膝負担を減少させる代償
膝OAの患者は、膝の負担を減少させ、疼痛を回避するために2つの歩行パターンを取ることがあります。1つは患側への体幹傾斜(側屈)とtoe outです。これは膝関節を内反する力を減少させる歩行戦略です(図6)。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200201082913j:image

膝への負担を減らす方法
膝OAへのアプローチは、膝への負担(荷重量、内反を助長)を減少させることが重要です。
① 膝関節周囲筋や股関節外転筋の筋力強化(図7、8)
② 膝関節屈曲拘縮の予防・改善(図7)
③ 歩き方の指導(階段や坂道をできるだけ避けるを含む)
④ 膝装具の利用
⑤ 足底板(ラテラルウェッジ)や良い靴の選択

4. O脚や内反足には、外側が長い月形しんを用いて踵骨が外側へ偏位することを抑える
⑥ 体重を減らす
⑦ 歩行時の荷重ショックや荷重時間を減らす
⑧ 杖を利用するなどが挙げられます。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200201083345j:image
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5. 変形性膝関節症では、大腿四頭筋の筋力低下萎縮を認めることが多く、保存的治療では、大腿四頭筋訓練が行われることが多い。

5. 保存療法で実施する大腿四頭筋へのアプローチは、等尺性運動を用いた筋力増強訓練や筋萎縮に対するストレッチなどが行われる。

有酸素療法ーグレードA

足底板療法ーグレードB

ホットパックーグレードC

①松野丈夫 他(総編集) : 標準整形外科学, 第12版, 医学書院, p.687-690. ②福井國彦(監修), 前田真治 : 老人のリハビリテーション, 第8版, 医学書院, p. 285-287. ③奈良 勲-他(シリーズ監修), 立野勝彦(編) : 標準理学療法学, 作業療法学 專門基礎分野, 整形外科学, 第4版, 医学書院, p. 73. 

 

5:膝関節の手術(特に人工膝関節全置換術)では、術中体位による血流低下や術後の疼痛、免荷による離床遅延などを受けて静脈血栓が形成されやすい(深部静脈血栓症)。この静脈血栓の存在に気づかずに下肢の運動や活動を開始すると、血栓が飛んで肺動脈に塞いを起
こし(肺血栓塞栓症)、致命的な状態となり得るため注意を要する。
①中村利孝,他(監):標準整形外科学,第13版,医学書院,2017, pp 664-669, 2条満盛憲,他(編): TEXT整形外科学,改訂4版,TEXTシリーズ,南山堂, 2012, pp 211-214.

術後のエックス線写真から人工膝関節置換術(TKA)が行われたことがわかる。手術翌日よりパテラセッティング、2日目に可動域運動と全荷重歩行が開始される。骨移植が行われた場合は荷重の時期を3週間程度遅らせ、術後5週での全荷重を目指す。
1. 低負荷でのCKCを用いた筋力強化は術後2~3 週で実施する。さらに高負荷での練習は3週以降に開始する。
2. ステップ練習は術後2~3週以降に開始する。
3. 床上動作練習は術後2~3週以降に開始する。
4. 歩行練習は術後早期に開始し、術後1~2週で杖歩行自立を目指す。徐々に松葉杖からT字杖へと進めていく
5. 自転車工ルゴメーターは術後2~3週以降に開始する。

耐用年数ー15年
①神野哲也 (監修), 相澤純也, 他(編) : ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション, 羊土社, p. 292-301. ②富士武史(監修), 河村廣幸,他 : ここがポイント! 整形外科疾患の理学療法, 改訂第2版, 金原出版, p. 195-205.