安全なHolmes-Stewart反跳現象の診察とその意義



他の先生がされる神経診察を拝見することはとても勉強になる.とくに自分が普段行っていない診察を見せていただくと,次回,試してみようと思う.Cure PSPという,米国の進行性核上性麻痺の患者会が作成したビデオ(PSP, CBD, PSPの症状と診断)を見ていたところ,面白い2つの診察に気がついた.いずれも小脳機能の診かたである.

Symptoms and Diagnosis; PSP, CBD and MSA

ひとつめは4分53秒頃から始まるfinger chase maneuverという測定過大(hypermetria)の診察に役に立つ診察である.検者は人差し指を任意の位置に動かしては止め,それを患者も同じく人差し指で追う(chaseする)というもの.患者の指は検者の指を通り越して,行き過ぎること(overshootすること)を,短時間で複数回診ることができる.

ふたつめはcheck reflexである.上記のfinger chase maneuverに引き続いて出てくる.これは小脳半球症候群として障害側にあらわれる徴候であるが,Holmes-Stewart現象の名称のほうが有名だろう.「ベッドサイド神経の診かた(南山堂)」にはスチュアート・ホームズ反跳現象と記載されている(図A).また「神経診察:実際とその意義(中外医学社)」には,診察手技の説明に加え,その解釈についても以下のように記載されている.

「検者が患者の手を持って維持し,患者に自分自身の胸に向かって力いっぱい手を引かせる.そして突然検者の手を離し抵抗を取ってしまう.健常者では,自分の手で自分の胸を打つことはないが,小脳に異常があると自分の胸を強打してしまう(これを本現象陽性とする)(図B).この現象は,手を胸に引くという動きを止める運動(拮抗筋:上腕三頭筋)の開始の障害(時間測定障害)と,筋のトーヌス低下による要素とが合わさって起きている現象ではないだろうか.この検査のときは,患者が自分で自分を打って怪我をすることがあるため,検者が患者の手をブロックできるように構えておくことが重要である」

ちなみにcheck reflexのcheckは,abruptly checked,つまり急に止めるの意味だと思われる(もし違っていれば教えてください).この診察はかつて行ったものの,図A,Bのように検者は患者が怪我しないようにブロックするとはいえやはり危険なので,次第に行わなくなった.しかしビデオを見てみると,閉眼し,バレーの肢位を取ってもらい,検者は患者の手首のあたり上から抑え,抵抗に抗して力を入れてもらう.そして急に押さえていた手を離すと,患者は止めることができず手のひらが大きく上に動く.これならば安全に施行できる!まさに目から鱗である.

もうひとつちなみに,Gordon Holmes(1869-1949)およびPurves Stewart(1869-1949)とも有名なイギリスの神経内科医である.Gordon Holmesは第一次世界大戦の際に,銃により小脳を損傷した兵士を多数診察し,上記の所見に気がついたということだ.

しかしGordon Holmesの原著(Stewart & Holmes. Brain 1904)やその解説(Ronald WA. Arch Neurol 1977)を読むと必ずしも小脳性運動失調のためだけの診察ではないことが分かる.通常,急に抵抗を離すと,少し力を入れていた方向に(つまり胸の方向に)動いたあと,逆向きの動きが出現する.これが反跳運動なのだが,Gordon Holmesはこの反跳運動に関して以下の3点を指摘している.

1)健常肢に認められる
2)痙性を認める肢では過剰に認められる
3)小脳疾患がある場合には消失する

つまりHolmes-Stewart試験は,小脳機能の診察のみならず,痙性の有無の診察にも使用できるということだ.ビデオでみた安全なHolmes-Stewart反跳現象で,上記の3点について確認してみようと思う.