脳血管障害①

硬膜外血腫ー凸レンズ

硬膜下血腫ー三日月

脳梗塞(早期診断)ーMRI拡散強調画像(DWI)

脳出血ー単純CT画像

わが国のくも膜下出血の年間発症率は, 人口10万人あたり約20人であり, 1: 2の割合で性に多い脳卒中のなかでも, 40~60歳代の年での発症が比較的多く,死亡率は約10~67%とされ,生存例の約30%は重度の障害を残して要介護となる重篤な疾患である。

初期治療では,

①再出血を防ぐことと,

②発症直後から上昇する頭蓋内圧をコントロールすることが重要となる。

治療方針の決定や予後予測のために,Hunt and Kosnik (H&K)gradeやWorld Federation of Neurological Surgeons(WFNS) gradeなどでくも膜下出血の重症度を評価する。

Hunt and Kosnik分類は、くも膜下出血の重症度をgrade 0~Vの7段階 (I は grade I と grade Iaの2段階)に分類したものである。grade と予後は相関が強く、gradeが大きいほど予後不良とされる。この分類はH&Hとベースが同じです、違いは注釈が加えられていることです。

Grade 0未破裂の動脈瘤
Grade Ⅰ:無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直をみる
Grade Ⅰa:急性の髄膜あるいは脳症状をみないが、固定した神経学的失調のあるもの
Grade Ⅱ:中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない
Grade Ⅲ:傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示すもの
Grade Ⅳ:昏迷状態で、中等度から重篤片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある
Grade Ⅴ:深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの

重篤な全身性疾患、たとえば高血圧、糖尿病、著明な動脈硬化、または慢性肺疾患、または脳血管造影でみられる頭蓋内血管攣縮が著明な場合には、重症度を1段階悪いほうに移す。

意識障害局所神経学的症状(失語あるいは片麻痺)によりグレードを評価します。

WFNS分類(1983)

GradeⅠ:GCS 15 主要な局所神経症状なし
GradeⅡ:14-13 主要な局所神経症状なし
GradeⅢ:14-13 主要な局所神経症状あり
GradeⅣ:12-7 主要な局所神経症状の有無は不問
GradeⅤ:6-3 主要な局所神経症状の有無は不問

重症度の分類とは少し趣旨が異なりますが、FisherのCT分類はくも膜下出血後の合併症である脳血管攣縮の発生を予測するための分類としてよく用いられています。

CTを用いてくも膜下腔への出血の程度、脳内・脳室内の血腫の有無の評価を行い分類します。

Fisher分類

group1:CTでは出血なし
group2:くも膜下腔にびまん性に1mm以内の薄い出血あり
group3:くも膜下腔にびまん性に1mm以上の厚い出血あり
group4:くも膜下出血は軽度で脳内あるいは脳室内の血腫を伴うもの

一般的に、くも膜下腔への出血量が多ければ多いほど脳血管攣縮が発生しやすことが報告されています。

近年発表された脳卒中データバンク2015の結果では、一過性のものを含むと開頭手術群においてgroup 1で13.7%、2で18.3%、3で29.4%、4で22.1%とgroup3に多い傾向を示し、血管内治療群においてはgroup1で5.3%、2で9.1%、3で23.1%、4で22.9%とgroup3と4で多いことが確認されました。

脳血管攣縮の頻度による神経損傷は機能予後、生命予後に直接的に影響することが報告されており、くも膜下出血発症後の二次的合併症の中でも脳血管攣縮は特に厳重に管理をすることが重要視されています。

ただし、fisher分類はgroupが高いほど予後が悪いとは限りません。

なぜなら、脳卒中データバンク2015の結果では、group1から4にかけて全体的に悪くなる傾向はありましたが、group3はmRSでみると0~5の幅広い範囲に患者が分布しており予後の良し悪しにバラツキがあったからです。

group4に関しては、mRS3~6に分布が集中しており、他のgroupに比べると予後が悪い結果となっており、group4は予後が不良になる事が示唆されています。

group4は脳内出血や脳室内出血を合併するため、これらがくも膜下出血予後不良に関連しているものと思われます。

1)Hunt WE, Hess RM. Surgical risk as related to time of intervention in the repair of intracranial aneurysms. J Neurosurg 1968;28:14-20.

2)Hunt WE, Kosnik EJ. Timing and perioperative care in intracranial aneurysm surgery. Clin Neurosurg 1974;21:79-89.
Report of World Federation of Neurological Surgeons Committee on a Universal Subarachnoid Hemorrhage Grading Scale. J Neurosurg 1988;68:985-986.
3)Report of World Federation of Neurological Surgeons Committee on a Universal Subarachnoid Hemorrhage Grading Scale. J Neurosurg 1988;68:985-986.

5. くも膜下出血による出血が激しいと、脳へルニアを生じ、脳幹部圧迫で死亡することもある。

奈良勲 他(シリーズ監修)、川平和美,他(編):標準理学療法作業療法学専門基礎分野、神経内科学、第4版、医学書院、p. 169-170.水尻強志,他(編著):脳卒中リハビリテーション早期リハからケアマネジメントまで、第3版、医南薬出版、p.79-80

3. くも膜下出血の原因は、動脈瘤破裂が全体の約85%と大半を占める。そのほか、非動脈瘤性中脳周辺くも膜下出血、脳動脈解離、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘤などによっても発症する。

1. くも膜下出血の原因で最も多いのは脳動脈瘤であり80%以上を占める。ついで脳動静脈奇形が5~10%、もやもや病などが10%程度である。

3:もやもや病=Willis 動脈輪閉塞症とも呼ぶ
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①内頸動脈の終末部,前,中大脳動脈近位部に狭窄または閉塞がみられる

②その付近に異常血管網(もやもや血管)が動脈相においてみられる

③それらの所見が両側にある

という3つを呈するものをいう.

4:脳動脈瘤はWillis動脈輪の前半部,特に前交通動脈内頸動脈 - 後交通動脈分岐部中大脳動脈に多く,破裂によってくも膜下出血を生じる。

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CT画像より、シルビウス裂などのくも膜下腔に高吸収域が認められ、くも膜下出血が確認できる。

1. くも膜下出血では、Kernig 徵候や激しい頭痛、嘔吐を認める。
2. Neck flextion test、項部硬直、Kernig微候は髓膜刺激症状であり、陽性となる。

memo 項部硬直やKernig徵候が陰性であっても、Neck flextion test は陽性のことがあり感度の高い検査である。
3. 再出血発症後24時間以内が多く、初回出血時よりも死亡率が高い
5. 脳血管攣縮は発症から72時間以降に生じ
8~10日が極期である。

2. くも膜下出血は、原則として巣症状は残さない。ただし、血管攣縮を生じると、神経症状が残存する。
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2015 (追補2017)、協和企画、p. 205-208.原寬美,他(編):脳卒中理学療法の理論と技術、第3版、メジカルビュー社、p. 108-111

1.くも膜下出血後4日~2週間は脳血管攣縮を合併しやすく、集中治療室での管理が主となる。 CT画像から本症例は重症くも膜下出血であり、 脳血管攣縮等の合併症をきたしやすい。 しかしながら、 理学療法廃用症候群、肺炎等を回避し、 長期的な予後を改善するために積極的に実施することが推奨されている。

2. 重症くも膜下出血忠者では、脳血管攣縮や水頭症を合併しやすいため、 新たな神経脱落症状の出現がないことを確認(毎回)してから運動療法を実施することが望ましい。

1. 離床を実施する上では脳血流量減少や全身状態やドレーンなどの付属品を考慮する必要があるが、 2週間の安静を強いる必要はなく、 医師と協議の上で可及的早期から進めていく必要がある。 破裂脳動脈瘤の根治術が行われ、収縮期血圧がコントロールされていることが離床開始基準としてあげられる。

血管攣縮の管理のうえで大切なのは, 予防と早期発見,治療である。 予防策としては, 攣縮の発生が血腫量に相関しているため, くも膜下腔の血腫をできるだけ取り除く, 早期開頭手術での血腫除去や脳槽ドレナージ, ウロキナーゼなどの線溶系薬剤の投与が行われる。

経過中では血管攣縮の早期発見のため, 発症時の血腫量や分布を把握し,神経症状を注意深く観察する。非侵襲的で簡便な補助検査としては, 経頭蓋的ドプラが有用である。また, ヘマトクリット電解質,血圧,体温なども参考となる。 血管攣縮が疑われれば, 血管攣縮治療薬の全身投与や血管拡張薬の動注経皮的血管形成術が行われる。

また,血管攣縮では、脳梗塞と同様に脳血流自動調節能が破綻していると考えられ,脳血流を維持するために,循環血液量の増加(hypervolemia)血液希釈(hemodilution ),人為的高血圧(hypertension)からなるtriple H療法が行われる。

3. くも膜下出血後の治療は降圧が重要である。また、 術後に頭痛を訴えることが多くみられる。 疼痛は血圧上昇の要因となるため、 鎮痛薬等で疼痛をコントロールしてから運動療法を進めることが望ましい。

4. くも膜下出血忠者は頭蓋内圧の充進や交感神経の興奮により不整脈などを合併しやすい

また、 交感神経の過剰興奮などが原因となり心機能障害を合併し、 神経原性肺水腫をきたす。 そのため、 運動に伴う心電図変化、血圧変動などを評価しながら進めていく必要がある。

1. くも膜下出血患者は中枢性塩類喪失症候群を呈することがある低ナトリウム血症では傾眠となるため、運動療法の阻害要因となる。また、低ナトリウム血症は脳血管攣縮の原因にもなるため、運動療法の実施に際して得るべき情報の一つである。

5.くも膜下出血患者は吐気や嘔吐を生じやすい。 そのため、食事や栄養剤投与直後の運動療法は避けることが望ましい。

4. 正常圧水頭症発症から1~2か月後の慢性期10~37%の頻度で生じる

認知症、排尿障害、歩行障害

CTやMRIで診断され,脳室腹腔シャント(VPシャント)や腰椎腹腔シャント(LP シャント)を行うことで症状の改善が期待できる。

タップテストからのTUG

大橋正洋·他: リハビリテーション MOOK2脳卒中リハビリテーション, 金原出版, p. 51-57, 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会: 脳卒中治療ガイドライン 2015(追補 2017), 協和企画,  p. 205-208. 内山 靖(総編集), 網本 和·他(編) 今日の理学療法指針, 医学書院, p. 194-198. 青木茂樹 他(編) : よくわかる脳MRI 第3版, 学研メディカル秀潤社, p. 686-687. 内山 靖(貓) : 神経症障害学 病態とエビデンスに基づく治療と理学療法, 文光堂, p. 295-305. 

 

視床出血では視床および視床に隣接する内包後脚,中脳の損傷が生じる

視床は脳の様々な領域と連絡しており、損傷される視床亜核により、運動失調、感覚障害、視野障害意識障害、注意障害、記憶障害、pusher現象、失語、半側空間無視など、様々な症状を呈する。血腫が内包後脚に及ぶと錐体路障害による運動麻痺を呈し、中脳に及ぶと動眼神経麻痺や意識障害を呈する。
1. 内包後脚の損傷により運動麻痺を呈する。

4. 視床出血では眼球は内下方偏位(鼻先凝視)を呈する。

2. 視床後外側腹側核の損傷で頸部から下

後内側腹側核の損傷で顔面の感覚障害を呈する。

3. 視床外側腹側核の損傷により運動失調を呈する。

4. 視床髄板内核および中脳の損傷により意識障害を呈す

①石川朗(総編集): 15 レクチャーシリーズ
理学療法テキスト神経障害理学療法学 I、中山書店、p. 11-20. ②原寬美,他(編集):脳卒中理学旅法の理論と技術、改訂第2版、メジカルビュー社、 p.30-33

 

CTでは左側の被殻に高吸収域がみられるた
め、左被殻出血である。

1,2:被殼出血は突然の頭痛,意識障害で発症し,反対側の顔面を含む片麻痺,感覚障害,反対側の同名性半盲,麻痺側への共同偏視などがみ
られる。

 

5:除脳硬直は橋出血でみられる.

5. 橋出血では中枢性過高熱を生じ、予後不良の徵候とされる。

4:瞳孔縮小橋出血,視床出血,小脳出血でみられる.

3. 皮質下出血では病巣に応じた巣症状を呈するため、症状は様々である。発症時にはてんかん発作を合併することがある。

 

TIA (transient ischemic attack:一過性脳虚血発作)とは、局所脳虚血または網膜虚血による神経機能障害の症状が短時間、典型的には臨床症状の持続時間が1時間以内であり、画像上では急性梗塞病変が認められないものである。

1:通常、急速に起こり、症候が完成するまでには5分とかからない(多くは2分以内)。

3:発作の持続時間は2~15分程度が多く、24時間を超えることはない。

4、5:TIA にみられる症候は、原因となる虚血部位が

内頸動脈系か椎骨脳底動脈系かで異なる前者では一過性黒内障が特徴的であり、後者では片側または両側の同名半盲がある(内頸動脈系ではまれ)。

2:症状は来院時にはすでに消失していることが多いが、原則的に入院の上、速やかに原因の検索を行い、再発予防の適切な治療を開始する必要がある。

①田崎義昭,他(坂井文彦 改訂) : ベッドサイドの神経の診かた,改訂18版,南山堂,2016, pp 375-378.②川平和美(編):神経内科学,第5版,標準理学療法学,作業療法学(專門基礎分野),医学書院, 2019, p 180.③医療情報科学研究所(編):脳神経,第2版,病気がみえるvol.7,メデイックメディア,2017, pp 98-99.

一過性脳虚血発作<transient ischemic at-
tacks : TIA)は、血管由来で一過性の局所神経症状を呈する症候群である。脳梗塞の前兆となる場合があるため、 TIAが疑われるときは早期に診断·治療を開始し、脳梗塞の発症を防ぐことが重要である。その際に用いられる評価法として ABCD2スコアがあり、

A (age 年齢)

B(blood pressure 血圧),

C(clinical features ; 臨床症状)

D(duration of symptoms 症状の持続時間)

D(diabetes :糖尿病)を点数化するf:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200201165848j:image

ことで TIAから脳梗塞への発症リスクを予測する。したがって TIA後はこれらの危険因子に対する介入(動脈硬化に関与する生活習慣の改善)が重要となり、

Bの血圧に対しては服薬管理や運動処方(強度や時間)によって降圧を目指し、運動の種類には有酸素運動 (ウォーキングなど)が推奨される。

Dの糖尿病に対しては有酸素運動と栄養指導が基本となる。

2:糖尿病は血管構造を弱化させ血管の閉塞や破綻が生じる,脳卒中,腎障害,眼障害,未梢神経障害などが引き起こされる.

①網本和,他(編著) :脳卒中理学療法 コアコンピテンス,中外医学社, 2018, pp 66-72. (②医療情報科学研究所 (編):脳·神経,第2版,病気がみえるvol.7, メディックメディア,2017, pp 98-99,

 

脳梗塞は、臨床病型により

心原性脳塞栓症、
アテローム血栓脳梗塞、                          ラクナ梗塞などに分けられる。

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そのうち心原性脳塞栓症とは、心疾患により心臟内に形成された血栓が塞栓子となって起こる脳梗塞である。

1:心原性脳塞栓症は心臓内血栓の形成誘因、
つまり不整脈(特に非弁膜症性心房細動)発症4週未満の心筋梗塞など、心疾患を有する人に好発する。

5. 心腔内血栓は心房細動により形成される.

4. 心原性脳梗塞の原因の過半数は非弁膜症性心房細動で、急性心筋梗塞心室などがある。

2. 心原性脳梗塞は、内頸動脈や中大脳動脈などの太い動脈領域に生じる

2:心原性脳塞栓症では、一度閉塞した血管であってもその後に線溶系が亢進し(血栓が溶け)、再び血管が開通することがある。この再開通がごく早期に起こると症状が劇的に改善することもあるが、すでに梗塞に陥った血管に同様の現象が起こると脆弱化した血管から血液が漏出し、出血性便塞になる(特に、脳梗塞発症後48時間以内が多い)=死亡率が高い

3. 心原性脳梗塞は、意識障害が高度で、重度片麻痺高次脳機能障害を呈することが多い。

3:夜間安静時に発症する(睡眠中に発症し、起床時に気づく)ことが多いのは、アテローム血栓脳梗塞の特徴である。

一方、心原性脳塞栓症は主に日中の活動時に心臓内血栓が遊離し、それが塞栓子となって脳動脈を閉塞することで生じやすい。

4:心原性脳塞栓症は塞栓子により突然血管が閉塞されるため、突発的に発症し、短時間で症状が完成するのを特徴とする。

5:心原性か非心原性心原性脳梗塞は、心臓内で形成された栓子や心内を経由した栓子が、脳血管を閉塞することで発症する。(ラクナ梗塞、アテローム血栓脳梗塞など)かによっ
て抗血栓薬は使い分けられるが、

基本的に

心原性脳塞栓症であれば抗凝固薬

非心原性脳梗塞であれば抗血小板薬

第一選択薬となる。

memo 心原性(心臟内に血栓ができるタイプ)は血流うっ滞による凝固能亢進が主病態となり、非心原性(脳動脈内に血栓ができるタイプ)は血管内皮傷害による血小板活性化が主病態となる。
水野美邦(編) : 神経内科ハンドブックー鑑別診断と治療,第5版,医学書院,2016,pp 627-636.
水野美邦(監):標準神経病学,第2版,医学書院,2012,pp 234-243.医療情報科学研究所(編) : 脳,神経,第2版,病気がみえるvol.7.メディックメディア, 2017, pp 74-99.奈良 勲 他(シリーズ監修)、川平和美,他(編):標準理学療法学,作業療法学専門基礎分野、神経内科学、第4版、医学書院、p.172-173.水尻強志,他(編著):脳卒中リハビリテーション早期リハからケアマネジメントまで、第3版、医歯薬出版、p. 84

 

ラクナ梗塞は細い脳動脈穿通枝に起こる直径15 mm未満の小さな梗塞で、高血圧を有する高齢者に多い。

1. ラクナ梗塞は、基底核や橋底部・視床に好発する径1.5 cm以下の病巣によって生じる。

1. 大脳皮質ではなく基底核や脳幹部に好発

1. そのため、意識障害や失語や失行、失認などの皮質症状、けいれんなどは生じにくく、回復良好な片麻痺や筋硬直、小刻み歩行、構音障害、意欲低下、知能低下などParkinson 病に類似した症状を生じやすい。

1. 高血圧との関連が強いとされ、一般には外科的治療は行われず、リハビリテーションが早期から開始される。

1. 生命予後は一般に良好だが、多発すると脳血管性認知症Parkinson症候群の原因となることがある。
細田多穂(監修), 植松光俊, 他(編) : シンプル理学療法学シリーズ中枢神経障害理学療法学テキスト, 改訂第2版, 南江堂, p. 22, 26. ②福井圈彦(監修), 前田眞治 : 老人のリハビリテーション, 第8版, 医学書院, p. 23. 

 

1. 脳幹梗塞では呼吸中枢の障害により、無呼吸Cheyne-Stokes (チェーンストークス) 呼吸を呈する。

 

小脳病変ー回転性めまい

2. 小脳出血では病巣と同側の失調症状を呈する。眼振の症状が強く平行機能障害や歩行障害に繋がる。

脳梗塞は小脳皮質に多く,一般には後下小脳動脈の領域,小脳後下面に多く生じるとされるが、原因となった血管病変を確認する必要がある.後下小脳動脈病变による小脳梗塞では,ワレンベルグ症候群(Lecture 18参照)を合併する類度も高い。
脳出血は,上小脳動脈の藩流域である歯状核を中心とした小脳髄室における出血が多いとされ、小脳虫部や第四脳室へ出血が波及する場合もある

急性水頭症

小脳は随意運動の調節に関与しているが、この神経回路において大脳連合野(特に前頭前野)と密接な線維連絡を有している。そのため、大脳皮質自体に損傷がない小脳出血であっても、大脳,小脳神経回路の損傷によって高次脳機能障害が起こり得る。小脳病変による高次脳機能障害は小脳性認知情動症候群
(cerebellar cognitive affective syndrome : CCAS)と定義され、遂行機能障害、空間認知障害言語障害(失文法や構音障害など)、人格変化の(不適切な行動や情動の平板化など)といったいわゆる前頭葉症状を呈することが指摘されている。

①鈴木俊明, 他(編) : 神释障害理学療法学I一脳血管隨害, 頭部外傷, 脊髓損傷, CroSslink 理学療法学テキストジカルビュー社, 2019, pp. 15-19. ②原寬美(監)高次脳機能 : 陳害ポケットイニュアル, 第3版, 医歯薬出版, 2015nn 2021. ③原寬美, 他(編) : 脳萃中理学療法の理論と技術,改訂第3版, メジカルビュー社, 2019, pp 294-295.

 

中脳腹側の損傷では、大脳脚と動眼神経が障害され、

①病巣側の末梢性動眼神経麻痺と

②病巣対側上下肢の中枢性運動麻痺を呈し、

Weber症候群(中脳腹側症候群)とよばれる。

また、橋下部腹側部の損傷では、外転神経,顔面神経と皮質脊髄路が障害され、

①病巣側の末梢性顔面神経麻痺および外転神経麻痺に加え、

②病巣対側上下肢の中枢性運動麻痺を呈し、

Millard-Gubler症候群(橋下部腹側症候群)とよばれる。

本症例の症状は右橋下部腹側の損傷による
Millard-Gubler症侯群にまるものと考えられる。
1. 左中脳腹側に病巣を有しており、呈する症状は右上下肢の中枢性麻痺と左動眼神経麻痺である。動眼神経麻痺によって複視は生じるが、中脳腹側の障害で顔面神経麻痺は生じない。
2. 右中脳腹側に病巣を有しており、呈する症状は左上下肢の中枢性麻痺と右動眼神経麻痺である。
3. 左橋下部腹側に病巣を有しており、呈する症状は右上下肢の中枢性麻痺と左顔面神経麻庫および左外転神経麻痺である。
4.右橋下部腹側に病巣を有しており、呈する症状は左上下肢の中枢性麻痺と右顔面神経麻痺および外転神経麻痺である。複視の訴えは外転神経麻痺によって生じるものである

5. 右延髄外側に病巣を有しており、

①病巣側の顔面の温痛覚障害(三叉神経麻痺)、

②Horner症候群(交感神経麻痺)、球麻痺、小脳失調、眼振、めまい。

③病巣側対側の頚から下の温痛覚障害

といった様々な症状がみられるWallenberg症候群(延髓外側症候群)を早する。

延髓外側部の梗塞によるWallenberg症候群の症状を問う問題である。Wallenberg症候群は、延髓の外側に存在する脳神経核、伝導路が障害されることによって様々な症状が組合さって出現する。閉塞部位は、後下小動脈(PICA)や椎骨動脈に多い。

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MRIT2強調画像
矢印は延髄右側の梗塞を 示しています。

1. 通常、Wallenberg症候群では深部感覚は障害されない。

5. 球麻痺は延髄の運動核の障害による口、舌、喉の麻痺である。

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2. 交感神経下行路の障害によるHorner(ホルネル)症候群(眼臉下垂、縮瞳、眼裂狭小、顔面発汗低下)は病巣側である右側に生じる。

3. 下小脳脚の障害による小脳性運動失調は病巣側である右側の頭から下に生じる。

4.三叉神経脊髄路の障害による顔面温痛覚は病巣側である右側に生じる。

5.外側脊髄視床路の障害による温痛覚障害は病巣側の反対側である左側の頸から下に生じる。

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①田崎義明. 他 : ベッドサイドの神経の診かた, 改訂18版, 南山堂, p.362-366. ②水尻強志, 他(編) : 脳卒中リハビリテーション早期リハからマネジメントまで, 第3版, 医歯薬出版, p. 154. 

 

硬膜外血腫   凸レンズ

硬膜下血腫   三日月

脳梗塞(早期診断)ーMRI拡散強調画像(DWI)

脳出血ー単純CT画像

1. 外傷性脳損傷(traumatic brain injury TBI) は、頭部に加わった外力による損傷で、原因の大部分は若年者の交通事故高齢者の不慮の墜落である。
2.外傷性脳損傷の分類のうち、荒木の分類は、臨床症状からの分類である。損傷部位や病理変化による分類は、Gennarelli の分類である。
3. 外傷後健忘の判定には、Galveston Orientation and Amnesia Test (GOAT)などが用いられる。Glasgow Outcome Scale(GOS) は、外傷の急性期以後の予後を評価するものである。
奈良 勲,他(シリーズ監修)、川平和美,他(編):標準理学療法学,作業療法学専門基礎分野、神経内科学、第4版、医学書院、p. 220-223.石合純大:高次脳機能障害学、第2版、医歯葉出版、p.262-265

 

頭部CT 画像では頭蓋骨と脳の間に凸レンズ型の高吸収域が認められ、急性硬膜外血腫であると考えられる。急性硬膜外血腫は頭蓋骨と硬膜の間に血腫が形成される病態で、大部分に頭蓋骨線状骨折を認める。10~20歳代の若年男性に好発する。初期意識障害後の意識清明期が特徵的で、多くは受傷後6時間以内に認められる。症状の経過は、血腫量と必ずしも相関せず、むしろ出血部位と出血速度に相
関する。その他の症状として、血腫が完成するにつれて頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧充進症状や瞳孔不同などの脳へルニア症状なとが認められる。

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1. 急性硬膜外血腫は血腫の対側に片麻痺を生じる。
4. 急性硬膜外血腫による直接あるいは圧追によって錐体路を損傷することで片麻痺が起きやすい。
5. 急性硬膜外血腫一時的な意識清明を伴う意識障害を認めることがある。

 

3. 意識半清明期とは受傷直後の意識障害から一部回復したり、再び悪化したりすることである。意識半清明を認めるのは急性硬膜下血腫で、多くはその後昏睡に陥る。

 

2. 頭部外傷による遷延性意識障害例の多くはびまん性脳損傷(脳梁)である。遷延性意識障害とは重度の昏睡状態を指す。

4. びまん性軸索損傷は、脳梁や脳幹部背側における軸索のびまん性損傷である。画像所見上、脳内の挫坐傷や血腫の合併は少ないが、受傷直後から意識障害が強い。

5. びまん性軸索損傷の慢性期には、運動麻痺や小脳失調のほか、記憶障害や注意障害などの高次脳機能障害がみられやすい。

3. 運動失調はびまん性脳損傷で生じやすい。

 

重症頭部外傷患者では、最初に気道、呼吸の管理を十分行い、全身状態の安定化を図る。その後、頭外傷の評価として、意識、頭痛の有無、視力障害、複視、瞳孔所見、聴力障書などの神経症状を評価し、頭皮や顔面の外傷、鼻腔、耳腔、口腔からの出血や髄液の漏出などを確認する。

1. 動脈血酸素飽和度は95%以上を日標とする。
2.動脈血酸素分圧は80 mmHg以上を目標とする。
3. 頭蓋内圧充進を認めるため、動脈血二酸化炭素分圧30~ 35 mmHgを目標とする。
4. 循環の管理目標として、収縮期血圧 120 mmHg 以上を目標とする。
5. 脳へルニアの微候を示していることから、これ以上の進行を予防するために、脳の循環代謝を正常範囲内に保つことが重要である。ペッドアップ15~30による頭位挙上が静脈還流を促し頭蓋内圧を下げる効果がある。脳還流圧が低下する30以上の頭位挙上は避ける。