理学診断・評価のための基本テクニック【脱臼】

はじめに

スポーツにおける肩関節障害は、フォームの破綻による肩関節への過剰な負担が原因のことがある。


また、逆に肩を含めたいずれかの部位の障害により正確に、効率よく、最大限のエネルギーが伝達されるべき運動連鎖、すなわちフォームが乱れてしまうとも考えられる。

 

したがって、下記に示す局所的な病態診断のための各種テストは、スポーツによる肩関節障害に重要であるが、それぞれのテストの結果がどういった病態を現わすのか、どういうメカニズムで局所の症状を生じるのかを考え
ることが大切である。

 

筒井廣明:新版 スポット外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド. 臨床スポーツ医学編集委員会:編 pp91

 

 
 
非外傷性肩関節の不安定性:Load and shift test(ロードアンドシフトテスト)
 

① テストポジション

 

患者を坐位とし, 検者は片手で鎖骨と肩甲骨を押さえ, 反対側の母指で上腕骨頭の後面, 他の指で前面を保持する.

 

 

 

② アクション

 

保持した後, load test として上腕骨頭を関節窩に押しつけるようにし, 次にshift testとして上腕骨頭を前方および後方に押し,骨頭

の translationの程度を3段階で評価する.

 

 

 

③ 陽性反応 

 

この際にtranslation のend point にて不安定感や疼痛の発現を確認する.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Sulcus test(サルカス徴候:Sulcus sign)

 

① テストポジション

 

患者を座位あるいは立位とし, 肩および上肢の筋をリラックスさせる.

 

上肢の肢位は肩関節内外旋中間位で20°外転, 肘関節90°屈曲位として, 検者は患者の肘(肘関節上部)と前腕(尺側)を保持する.

 

 

 

② アクション

 

保持した後, 上肢を下方に牽引する.

 

 

 

③陽性反応

 

この際にSulcus signがあれば陽性で, その程度を3段階に評価し, 同時に不安感や疼痛の程度もみる¹⁾.

 

 

 

Sulcus test陽性反応とは, 下方に牽引すると上腕骨頭が下がる(Step-off: 外れるような感じ)ことにより, 肩峰外側端の下に陥凹ができるものを陽性とする²⁾.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Anterior apprehension test(アンテリアーアプリヘンションテスト)

 

① テストポジション

 

患者を坐位とし, 上肢の肢位は肩関節90°外転 (肘関節90°屈曲位)として, 検者は(患者の後方から)患者の肘(≒肩関節後面)と前腕(手背 側)を保持する.

 

 

 

②アクション

 

保持した後, 上腕骨頭の後方に検者の母指をあて骨頭を前方にゆっくりと押し出 すように外旋, 水平伸展させていく¹⁻²⁾. 

 

 

 

③陽性反応

 

この際に患者が不安感を訴えた際には陽性とする¹⁾.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Fulcrum test(フルクラムテスト)

 

① テストポジション

 

患者を仰臥位とし, 上肢の肢位は肘関節90°屈曲位で肩関節を90°外転, 90°外旋として診察台の端から出し, 検者は一方の手で前腕を保持する.

 

 

 

②アクション

 

保持した後, 他方の手を上腕と診察台との間に入れ前方に押す.

 

 

 

③陽性反応

 

この際に患者が不安感や疼痛を訴えれば陽性である.

 

 

 

※肩甲骨が診察台に固定されるため, anterior apprehension test よりも少ない外旋角度で陽性となる.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Relocation Test (リロケーションテスト)

 

① テストポジション

 

Fulcrum test(フルクラムテスト)で患者が不安定感を訴える肢位に保 持する.

 

 

 

② アクション

 

 保持した後, 検者が上腕と診察台との間に置いてあった手をはずし, 上腕近位を後方に押す.

 


③ 陽性反応 

 

この際に患者の不安定感が消失する場合に陽性とする.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Posterior apprehension test(ポステリアーアプリヘンションテスト)

 

① テストポジション

 

患者を仰臥位とし, 上肢の肢位は肩関節を肩甲骨面で90°前方挙上する.

 

 

 

② アクション

 

保持した後, 検者は患者の肘に後方への圧を加えながら更に肩関節を内旋, 水平屈曲する.

 

 

 

③陽性反応

 

この際に患者が不安定感を訴えれば陽性とする.

 


非外傷性肩関節の不安定性:Jerk test(ジャークテスト)

 

① テストポジション

 

患者を坐位とし, 上肢の肢位は肩関節を90°届曲, 内旋位とする.

 

 

 

② アクション

 

保持した後, 検者は肘を保持し, 上腕に対して軸圧を近位方向に加えながら水平屈曲する.

 

 

 

③陽性反応

 

この際に上腕骨頭が関節窩から後方に亜脱白する(first jerk). さらに水平伸展すると,上腕骨頭は整復される(second jerk). 習慣性後方亜脱臼にて陽性となる.

 


 

引用改変

 

1)筒井廣明:新版 スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド. 臨床スポーツ医学編集委員会:編 pp94-95

 

2)高橋邦泰: スポーツ理学療法で必要なる整形外科徒手テストと徴候. 理学療法学科 第23巻3号 pp1