呼吸・循環・代謝・感覚器

 

浮腫とは細胞外液量,特に組織間液(間質液)の量が異常に増えた状態で,全身性浮腫,局所性浮腫がある。

また,圧痕性浮腫は圧した場合に圧痕になるもの,非圧痕性浮腫は圧痕にならないものである。

前者は間質に水がたまる状態であり,ネフローぜ症候群や肝硬変などでは血管内浸透圧低下により,熱傷などの炎症では血管透過性の亢進により,心不全や腎不全では血液量增加に伴う血管内静水圧の増加により,浮腫として現れる。

後者は甲状腺機能低下による代謝機能の低下で、皮膚に水和性の高く弾力の強いムコ多糖類が蓄積し,非圧痕性浮腫を呈する。

突然死は瞬間的で予測不能な死として、一般に内因性の原因で生じるものをいう。

1、4:突然死には日内変動があるのが特徴であり、朝9~11時ごろを中心とした午前中の発生が多い

これには起床後の交感神経活性の充進、血管の緊張度の高まり、血小板凝集能の増加などが関連するといわれ、

実際に、交感神経活性を抑制するB遮断薬の投与はこの時間帯にきわめて効果的とされている。

2:突然死の大半が心臓由来であり(約80%)、残りの約20%が脳血管疾患、大動脈破裂、呼吸器疾患由来である。

3:悪性の頻脈.徐脈性不整脈が突然死の最終的な引き金となるが、突然死をきたす重要疾患と考えられているのは、血性心疾患と心筋症である。

5:植込み型除細動器(implant-able cardioverter defibrillator ICD)危機因子とされる。

心室細動心室頻拍

の発生時に通電させることで治療,予防の一手段となる。

memo これらの不整脈によって突然死のリスクが高い患者はICD 植込み術が適応となり、特に心機能が 40%を切るような悪化群では有用とされ、生存率の改善につながる。

 

うっ血性心不全ーループ利尿薬、β遮断薬

β遮断薬ー運動に対する心拍数の反応が低下するー心拍数を基準とした運動処方時に注意

ー自覚強度などで処方

運動強度=(最心(220-年齢)-安心)÷(心-安心)

心拍数=1500÷R-R(㎜)

 

心不全とは心臓のポンプ機能が低下し、心拍出量が低下することで各種臓器における代謝の必要量に応じて、必要な血液の駆出が困難な状態である。

ポンプ機能が低下した場合、心臓の容積を大きくして(心拡大)、送り出す血液量を保つ必要がある。その容積を大きくするために、心房から心室に多量の血液を送る必要がある。

それにより心房の圧が高くなり、肺や体静脈系のうっ血をきたす病態である。左心不全は左心系の機能不全によって生じ、心拍出量低下と肺うっ血が特徴である。一方、右心不全は右心系の機能不全により、静脈系のうっ血が起こり諸臓器に浮腫をきたす。

心機能低下ー拍出量低下ー頸(求心,舌咽、遠心,迷走)、大動脈(求心,迷走、遠心,迷走)

の圧センサー血圧低下を感知ー交感神経亢進ーβ(心臓の心拍数上昇)、α(末梢血管収縮)

心機能低下ー拍出量低下ー腎臓の血液濯流量低下ーレニンテンシンアルドステロン系活性化f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129092552j:image

1. 左心不全では呼吸困難が背臥位で増強するため、座位(起坐呼吸)になることで楽になる

2. BNPは長時間心臟に負荷がかかると主に心室から分泌されるホルモンであり、うっ血性心不全では BNP は高値となる。心不全の重症度の指標であり、高ければ高いほど重症となる。

3. 心不全による心機能低下は心内腔の拡大を引き起こし、心拡大となり、心胸郭比(CTR)が増大する。

4.右心不全では体液が身体に貯留し、初期では体重は増加し、四肢末梢の浮腫を認める。

5. 頸静脈怒張は右心不全による体静脈うっ血による症状である。肺うっ血では呼吸困難症状が生じる。
①高橋哲也(編) : ビジュアルレクチャー 内部障害理学療法学, 第2版, 医歯薬出版, p. 132-138. ②美津島隆, 他(監修), 鈴木啓介, 他(編) : 内部障害リハのための胸部, 腹部画像読影のすすめ, メジカルビュー社, p. 146-151.


心不全の重症度を評価するためには、悪くなった心臓が全身に及ぼす影響度を評価することと同時に、心臓そのものの機能・構造の異常を評価することが大切です。

構造機能異常の評価はほとんど心エコーで可能ですが、

より精密に評価するためにBNP濃度測定や心臓MRIを行うことがあります。

BNPやNT-proBNP値を心不全診療に活かす第一歩は、心不全の早期診断です。その閾値を図2に示しました。わが国では、BNPのデータが主であり、NT-proBNPは比較的少ないことから、BNPを主体に作図しました。また、この図は初めて心不全を疑ってBNP値を測定した症例を想定しております。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129120157j:image

●正常値は一般に普及している18.4pg/mlを用いました。この値より低い場合には、潜在的心不全の可能性は極めて低いと判断されます。
●血中BNP値が18.4-40pg/mlの場合は、心不全の危険因子を有している症例でも、直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断されます。ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。
40-100pg/mlの場合には、軽度の心不全の可能性があります。危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査の実施をお勧めします。ただ、この範囲では、重症心不全である可能性は低く、BNP上昇の原因がある程度特定できれば、そのまま経過観察することも可能でしょう。
●100-200pg/mlの場合は、治療対象となる心不全である可能性があります。心エコー図検査を含む検査を早期に実施し、原因検索をお願いします。もし、心不全を疑う所見が得られ、対応が難しいようであれば専門医にご紹介下さい。
●200pg/ml以上の場合は、治療対象となる心不全である可能性が高いと思われます。原因検索に引き続き、症状を伴う場合は心不全治療を開始して下さい。更なる診療が必要な場合には専門医での対応を考慮して下さい。

上記のBNP値に相当するNT-proBNP値については、現段階ではコンセンサスが得られていません。そこで、本ステートメントでは以下の提案をいたします。BNP 40pg/mlに対してはNT-proBNP 125pg/ml、BNP 200pg/mlに対してはNT-proBNP 900pg/mlといたします。

NPやNT-proBNPを用いた心不全管理について、慢性心不全と既に診断が確定している症例で、BNPやNT-proBNPガイド下に治療をすすめることが可能と思われます。しかし、このガイド下治療は再入院の減少に繋がるとの報告はありますが、死亡率の減少に有効であったというエビデンスは未だありません。この点は今後の重要な検討課題です。基本的に、BNPやNT-proBNP値をある数値以下に維持しなければいけないという絶対的な目標値はありません。実臨床では個々の症例に最適なBNP値やNT-proBNP値を見つけ、その値を維持する包括的な疾病管理、つまり、生活習慣の是正(断煙、断酒、減塩、食事や運動の適正化など)と適切な薬物治療が重要です。また、心不全管理中のBNPやNT-proBNP値は過去との比較が大切です。前回に較べて2倍以上に上昇した時には、何か理由があります。その原因を探索し、早目の介入が必要でしょう。可能であれば薬剤を調整して心不全のコントロールを強化して下さい。

おわりに
BNPやNT-proBNPは有力な心不全のバイオマーカーです。心不全診療の補助手段としてはとても有力ですが、これだけで基礎疾患は分かりません。つまり、BNPやNT-proBNPのみに基づいた心不全診断や疾病管理はありえません。症状をよく聴き、徴候をよくみて、他の検査と合わせて総合的に判断を下すことが大事であります。BNPを上手く使うことで、より良い心不全の診療が我が国に広く行き届くことを願っております。

①慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf
②急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf
③ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure 2012. Eur Heart J 2012;33:1787

また、心臓・肺や筋肉の働きを調べるために、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指す運動耐容能を自覚症状や6分間歩行、CPX(心肺運動負荷試験)から評価します。

心不全の重症度分類には、主に

①自覚症状よる分類(NYHA分類)、

②血行動態(心係数,肺動脈楔入圧)による分類、

③聴診所見による分類(Killip分類)、

④うっ血と未梢循環不全の有無による分類(Nohria-Stevenson分類)ノリア・スティーブンソンが存在する。

⑤ACC/AHA分類(心不全を癌と同様にステージ分類した評価)

1. NYHA心機能分類とはニューヨークの心臓協会(New York Heart Association)が作成し、身体活動による自覚症状の程度により心疾患の重症度を分類したもので、心不全における重症度分類として広く用いられている。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129121412j:image

岡山大学循環器科の伊藤浩先生:改訳

(長所)

* 自覚症状で分類されているので、理解しやすい。

* 患者の状況を、医師・看護間で、共有できる。

* 世界で通用する基準である。

(短所)

* 自覚症状なので、あいまいな把握となる。

* 自覚症状は、個人差がある。(我慢強い人 vs 大袈裟な人)

* 薬効評価などに使うと、ステージの改善は、希望的観測となる。(Bias)

3. Killip(キリップ)分類は、肺野のうっ血所見の有無により心不全の重症度を分類したもので、これにより初診時の理学所見(主に聴診所見)のみで短時間に重症度を把握できる。急性心筋梗塞に伴う心不全の心機能障害重症度分類として用いられる。Killip分類を以下に示す。

CLass Ⅰ 心不全の微候なし

Class Ⅱ 軽度~中等度心不全

Class Ⅲ ラ音聴取領域が全肺野の50%未満
Class Ⅳ 重症心不全
肺水腫、ラ音聴取領域が全肺野の50%以上
Class IV 心原性ショック
血圧 90 mmHg未満、尿量減少、チアノーゼ、冷たく湿った皮膚、意識障害を伴う

4. Nohria-Stevenson分類

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129081228j:image

4. フォレスター分類
f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129133148j:image

5. ACC/AHAステージ分類2001年にACC/AHA(American Heart Association / American College of Cardiology)の心不全に関するガイドラインから登場したステージ分類です。
ACC/AHA分類は通常「不可逆的」と言われており、ステージが進行すれば決してもとに戻ることはありません。ステージが進行すればするほど、心不全はより重症になります。
f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129114505j:image
引用:日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)Yancy CW,et al.2013より改変

 

薬剤コントロールによる治療

 

心機能検査

X線画像ーエビデンスレベルC

冠動脈造影検査ーエビデンス レベルB

 

1. 僧帽弁狭窄症は、左心房と左心室の間にある僧帽弁の癒着により弁口が狭小化し、拡張期に血液の左房から左心室への流入が障害される病態である。収縮期に左心室から左心房に血液が逆流するのは、僧帽弁閉鎖不全症である。
2. 僧帽弁狭窄症の心電図では、左房負荷を反映する僧帽P波がみられる。
3. 大動脈弁狭窄症は、大動脈弁尖に肥厚、硬化が起こり、弁口面積の狭小化を生じた病態である。
4. 大動脈弁狭窄症の重症例では、労作時に、失神、胸痛(狭心痛)、呼吸困難の3徴候がみられる。
5. 三尖弁閉鎖不全症は、三尖弁口からの逆流によって右心房圧上昇から右心室拡大がみられ、右心不全徵候を示す。
①奈良 勲, 他(シリーズ監修), 前田眞治, 他 : 標準理学療法学, 作業療法学 専門基礎分野, 内科学, 第3版, 医学書院, p.80-82. ②井村裕夫(編) :わかりやすい内科学, 第3版, 文光堂, p. 140-150. 

 

急性心筋梗塞は、冠動脈の閉塞によって広範囲の心筋が虚血性壊死に陥った状態である。

1:原因の動脈硬化は,糖尿病,脂質異常症,喫煙などで起こりやすい.

2:糖尿病は血管構造を弱化させる.血管の閉塞や破綻が生じ,脳卒中,腎障害,眼障害,未梢神経障害などが引き起こされる.

5:機械的合併症には,心破裂(左室自由壁破裂),心室中隔穿孔,乳頭筋断裂がある。

1. 合併症として,心室頻拍,乳頭筋断裂,肩手症候群,心室中隔欠損などがあげられる。

心室頻拍は心室細動へ移行すると致命的であり、除細動が必要である.

僧帽弁に付着する乳頭筋が梗塞により断裂すると、急性僧帽弁開鎖不全を生じ、僧帽弁逆流が起こる。

肩手症候群は心筋梗塞の放散痛や関連痛に関連した運動制限や長期が床により起こる.

心室中隔穿孔とは、心室中隔の壊死により穿孔が生じ左室から右室に血すが流入し、急激な呼吸不全,血圧低下を伴う重態な合許症である。

3. 心内膜下梗塞は、心筋層の内膜側1/3に限局的に壊死を認めるものである。心筋壁全層が壊死に陥るのは、貫壁性梗塞である。

4. 冠動脈が完全に閉塞しても、心筋壊死が完成するには6時間を要するため、その間に梗塞責任冠動脈の再灌流に成功すると、死亡率の低下につながる。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)はこの目的で実施される。

2:通常, 20分以上の継続する激しい胸痛,冷汗,嘔気を認める

1. 心筋梗塞では、突然の締め付けられるような激しい胸痛が左肩や上腕に放散し、30分以上持続する。

3:心収縮拡張能の低下により聴診ではⅠ音が聞かれるが,V音が開かれることもある。

4. 心筋梗塞でみられる心電図所見には、ST上昇異常Q波がある。異常Q波は、幅が0.04 秒以上で、深さがR波の振幅の1/4以上のもので、発症後24時間以内に出現する。

4:心筋トロポニンTは,発症3~4時間で上昇し,6時間経過では100%となる。

2. 心筋梗塞における血液検査查では、トロポニンTやトロポニン1の上昇がみられる。

①前田眞治, 他 : 標準理学療法学, 作業療法学 内科学第3版, pp76-78, 医学書院, 2014. ②寺野 彰(総編集) : シンプル内科学改訂第2版, p170-177, 南江堂, 2017. ③医療情報科学研究所(編)病気がみえるvol. 2循環器 第4版. pp82-89, メディックメディア, 2017.

 

虚血性心疾患で主に用いられる薬物である。
1. 狭心症亜硝酸にはニトログリセリンなどが含まれる。冠動脈を拡張させ発作を鎮める。また、末梢血管の拡張に働き、静脈還流量を減少させ心臓の負担軽減(前負荷軽減)の作用をもたらす
2. Ca拮抗薬は房室結節伝導を抑制し、心臓の働きを抑えて血圧を低下させ心臟の負担を軽減、冠動脈の痙攣を抑制する。

2. カルシウム拮抗薬は降圧薬の第一選択薬である。 血管平滑筋の電位依存性 L型 Ca2チャネルに作用し、細胞内へのCa2+流入を抑制する。
3. B遮断薬は交感神経系に働き、心筋の酸素需要を抑制し発作を予防する。副交感神経系への亢進作用はない。
4、5.抗血小薬や抗凝固薬は血栓予防に働く。特に急性のST上昇型心筋梗塞患者における血液凝固に対して用いられる。

1. 利尿薬は降圧薬の第一選択薬である。腎臓でのNaと水分排泄を増加させることで、,循環血液を減少させる。
3. ACE 阻害薬は降圧薬の第一選選択である。アンジオテンシンIからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害することにより、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を抑制する。
4. 抗血血小板にはアスピリンなどがあり、血栓性疾患の治療に用いられる。
5. アンジオテンシン1受容体拮抗薬は降圧薬の第一選択薬である。アンジオテンシン1受容体を直接阻害することで血圧低下作用を示す。
①Thompson WR. 他 : 運動処方の指針 運動負荷試験と運動プログラム, 原書第8版, 日本体力医学会体力科学編集委員会(監訳), 南江堂, p. 286-305. ②柳澤 健(編) : 理学療法学 ゴールド.マスター, テキスト6 内部障害理学療法学, メジカルビュー社, p.38-39. 

 

急性期心臟リハビリテーションは、急性心筋梗塞を発症し Coronary Care Unit (CCU) やIntensive Care Unit (ICU)に入院した時点から離床に至るまでに行われるもので、食事 排泄,入浴などの自分の身のまわりのことを安全に行うことができるようにすることと、早期から二次予防に向けた教育を開始することが目標である。安静度拡大の各段階で負荷試験を行い、次の段階に進む。合併症がなく室内歩行程度の歩行負荷試験がクリアできれば、一般病棟へ転出し、前期回復期リハビリテーションに移行する。

心筋梗塞症患者の急性期リハビリテーションプログラムステージ進行基

①胸痛、呼吸困難、動悸などの自覚症状が出現しないこと。
②拍数が120回/分以上にならないこと、または40回/分以上増加しないこと。
③危険な不整脈が出現しないこと。
④心電図上1mm 以上のST低下,T波の陰転化,2mm以上のST上昇がないこと。
⑤室内便器使用時までは20mmHg以上の収縮期血圧上昇,低下がないこと(2週間以上経過した場合,血圧に関する基準は設けない)
負荷試験不合格の場合,薬物追加などの対策を実施し,翌日に再度同じ負荷試験を行う

①上月正博 : よくわかる内部障害理学療法, 医歯薬出版, p. 69-74. ②高橋哲也 : ビジュアルレクチャー内部障害理学療法学, 第2版, 医歯葉出版, p. 200, 235. ③野原隆司, 他 (編) : 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版), http://www.j circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012 nohara h.pdf

①上月正博(著編) : 新編内部障害リハビリテーション, 医歯薬出版, p.152-154, 178-185. ②上田 敏(監修), 伊藤俊之. 他(編) : 標準リハビリテーション医学, 第3版, 医学書院, p.462-463. 

Lown分類

grade0 : 心室期外収縮無し
grade1 : 散発性(1個/分または30個/時間以内)
grade2 : 散発性(1個/分または30個/時間以上)
grade3 : 多形性=多源性(期外収縮波形の種類が複数あるもの)
grade4a : 2連発
grade4b : 3連発
grade5 : 短い連結期(R on T現象)

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200210104100j:image

※基礎疾患に心筋梗塞がある場合の心室期外収縮で、Lown分類3以上のタイプを観察した場合には、直ぐに医師に連絡し、適切な指示を受ける必要がある。基礎疾患を有さない場合においても、このような不整脈を捉えた場合には、念のために、医師に連絡をとっておく。

1. 多源性心室期外収縮は、心臓の2か所以上から興奮が生じたもので、心室期外収縮が異なった形状で出現する。

心臓リハビリテーションにおいては患者教育が重要な位置を占める。虚血性心疾患の多くは生活習慣に起因しており、同じような生活を送っていれば再発する可能性がある。そのため生活習慣の改善が治療の基本となる。入院期は段階的に運動強度を増加させていくことが一般的である。シャワー浴は2METS、立位での会話は 1.8 METS、ゆっくりとした歩行は2~3 METS、椅子に座ってテレビを見るのは1.3 METSである。
①高橋 哲也(編) : ビジュアルレクチャー 内部障害理学療法学, 医歯薬出版板, p. 128-131, 228-231. ②(国研)医薬基盤·健康·栄養研究所 : 改訂版, 「身体活動の(METS) 2012, http://www.nibiohn.go.jp/eiken/
programs/2011mets.pdf

冠危険因子とは、冠動脈の動脈硬化などの危険因子を意味する。冠危険因子には①高血圧、②脂質異常症、③肥満、④糖尿病、⑤運動不足、⑥喫煙、⑦精神保健(ストレス)、⑧抑うつや不安、⑨家族歴、⑩年齢、⑪性別なとがあげられる。心臓リハビリテーションでは運動療法だけでなく、患者教育も重要視されており、虚血性心疾患は冠危険因子の是正が重要で、生活が改善されなければ再発する可能性も高い。
1. 家族歴には両親や祖父母、兄弟などで発症した虚血性心疾患の既往や突然死、家族性高コレステロールなどがある。
2. BMIは25 kg/m2未満に保つことが望ましい。ウエスト周囲径も簡便な指標である。
3. 運動は有酸素運動を中心に指導し、生活の中でも活動量を増やすよう指導する必要がある。
5. 喫煙は虚血性心疾患の発症率や死亡率を高くする。喫煙者の禁煙は大前提であり、非喫煙者では受動喫煙などに注意する必要があり、本人だけでなく家族にも指導する必要がある。

心筋梗塞患者の退院後は運動だけでなく、食事面(一般に6g以下/日のナトリウム制限)や生活面(禁煙・禁酒、40~41度・鎖骨下までの半座位浴・10分以内、インフルエンザワクチン接種)の指導が重要となり、最大の目標は再発予防となる。病前と同じ生活では当然再発のリスクも高くなる。入院中から指導し、退院後実践できているかを診察やリハビリ参加中に確認することが大切である。

運動面に関しては「心臟を治療したから」と、退院後の運動だけでなく、活動を制限してしまう患者も少なくない。具体的にどれくらいの運動をして良いかなどを指導し、継続的に行えることが重要である。

1. CPX (心肺運動負荷試験)を行い、運動処方はAT (嫌気性代謝閥値)または最高酸素摂取量の40~60%の心拍数とする。

2.心拍数予備能は(220-年齢)-安静時心拍数で求めることができる。80%は強度として強いため40~60%程度で処方する。

3. Borg指数は自覚的運動強度であり、15は「きつい」レベルである。11 「楽である」~ 13「ややきつい」が目安となる。

memo Borg13 がおおむねATの運動強度に相当する。

4. 運動時間は10分x 2回/日から開始し、最終的には30~ 60 分x 2回/日を目指す。頻度は週1回では少なく、週3回~毎日が目標となる。時間,頻度は重症度によって異なる。

5. レジスタンストレーニング有酸素運動と併せて、負荷量に注意しながら行うべきである。

各種のガイドラインでは治療方法とそのエビデンスレベルが設定され、波切な治療を行うための指針となっている。ビデンスベルは、Aでは400 例以上の他施設無作為介人臨床試験またはメタアナリシスによって実証されたもの、Bでは400何以下の多施設無作為介人臨床試験等の研究、Cでは専門医の意見が一致しているものとなってる。
1.左室リモデリングの抑制ーエビデンスレベルはAである。心筋框塞によって壊死した心筋の形、壁の厚さ、左室の大きさの変化などの代償機構のことを左室リモデリングという。左室リモデリングは最終的に心筋の収縮能を低下させるので、長期的な心機能生命予後の規定因子として重要である。
2. 炎症性サイトカインの減少ーエビデンスレベルはBである。慢性心不全の病態には酸化ストレスや TNF-a、IL-6などの炎症性サイトカインが害促進因子として働いていることが示でされている。運動療法は一過性の炎症反応を引き起こすが、長期的な運動療法は抗炎症作用があり、炎症性サイトカインを減少させる効果がある。
3. 運動耐容能の増加ーエビデンスレベルはAである。運動耐容能(peak Vo2)は運動療法によって15~25%増加する。増加機序については末梢循環や骨格筋機能の改善などの末梢部分の効果が主たるものと考えられている。
4.圧受容体反射感受性の改善ーエビデンスレベルはBである。慢性心不全患者において圧受容器反射の感受性が低下すると生命予後が悪化する。運動療法は圧受容器反射の感受性を改善させ、交感神軽活動を抑制することができる。
5. 血小板凝集能低下ーエビデンスレベルはBである。運動療法には血液粘度の低下や血小板凝集能、血液凝固の低下作用が認められている。

①上月正博(編) :よくわかる内部障害運動療法, 医歯薬出版, p.65-66. ②野原隆司, 他 : 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版), http://www.jacr.jp/web/pdf/RH_JCS2012_nohara_h_2015.01.14.pdf

1:心臟リハビリテーションが冠動脈疾患者の運動耐容能を改善し,心血管死亡や総死亡率を低下させることはエビデンスとして確立されている.

2:心臓リハビリテーションへの積極的参加が生涯リスクを改善させる。

4. 高度房室ブロックー相対的禁忌

3:心血管疾患患者における運動耐容能は,運動療法開始から3~6か月後に平均20%向上し,耐容能の低い患者でより大きい効果が得られる.

4:運動療法は,左室リモデリング(血行力学的負荷に対応して循環動態を一定に保つために構造と形態を変化させることであり,心筋梗塞後などにみられる)を悪化させることはなく,抑制効果を有する.

5:運動療法は,交感神経の活性低下と副交感神経の活性充進に効果があり、心拍数が減少する。
①日本循環器学会, 他 : 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン (2012年改訂版), pp34-37.2) B 7 URL http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/
JCS2012 nohara_h.pdf (2019 iF 6 A)

 

虚血性心疾患の治療として、運動療法は運動耐容能の増加、同一負荷における症状の軽減、心血管疾患の増悪・再発の予防、再入院の減少、生命予後の改善、収縮期血圧の低下、脂質代謝の改善などの重要な役割を果たす。

1:心不全増悪による入院の減少、冠状動脈性事故発生率の減少が期待できる。

2:心筋虚血閾値の上昇による狭心症発作の軽減が期待できる。

3:運動療法により冠血管拡張能が改善し、心筋虚血が改善されると考えられている。
memo冠状動脈の器質的狭窄の進行抑制や、軽度退縮の効果もある。

4:冠危険因子として、収縮期血圧の低下、HDLコレステロールの増加、中性脂肪の減少、喫煙率の減少が期待できる。

5:最大下同一負荷強度において、換気量減少、心拍数減少、心仕事量(心臟二重積) の減少が期待できる。
①松尾善美(編) : 内部障害理学療法学, PT.0T ビジュアルテキスト, 羊土社, 2016, pp 143-147. ②千野直一(監) : 現代リハビリテーション医学, 改訂第4版, 金原出版, 2017, pp 348-358. ③江藤文夫, 他(監) : 最新リハビリテーション医学, 第3版, 医薬出版, 2016, pp 330-334.

β受容体(心臓、骨格筋の毛細血管)ー血管拡張

α受容体(脾、腎、皮膚、腸管)ー血管収縮

 

原発性アルドステロン症は副腎皮質腺腫や過形成からのアルドステロン過剰分泌により、 高血圧と低カリウム血症、代謝性アルカローシスをきたす疾患である。

1. アルドステロンは腎臓の集合管に作用し、 ナトリウムと水の再吸収を促進する。またレニンーアンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)によって調節されている。二次性高血圧の主な原因となり、近年では高血圧全体の5~10%を占めると言われている。
1. 原発性アルドステロン症では、カリウムの排泄促進により低カリウム血症となる。
2. ナトリウムの再吸収充進によりナトリウムと水が体内に貯留し、循環血液量が増加することで高血圧になる。
3. アルドステロンはカリウムイオンとともに水素イオンの排泄を充進させるため代謝性アルカローシスとなる
4. 高度な低カリウム血症(血清カリウムS3.0 mBq/L)となると細胞の脱分極状態が延長するため筋力低下などの症候を示す。
5. 長期の低カリウム血症では腎臓の問質に変性が生じ、腎機能の低下による多飲、多尿をきたす。
①井村裕夫(編集主幹) : わかりやすい内科学
第3版, 文光堂, p.890-892. ②水間正燈·他 (編) : リハビリテーションのための疾患ガイド, 第1版, 医歯薬出版, p. 219. 

 

腎不全の症状には,低アルブミン血症,高力リウム血症,夜間多尿,腎性貧血,出血傾向などがある.

1:糸球体障害により,糸球体係蹄壁透過性が亢進して蛋白尿となり,アルブミン血症となる.

2. 糸球体係蹄壁の傷害によって毛細血管の透過性が充進すると蛋白質(主にアルブミン) が尿中に漏出するため、蛋白尿が生じる。またアルブミンが尿中に排泄されるため低アルブミン血症となる。

3. 糸球体濾過が減少して尿の生成量が減少すると細胞外液(血液、間質液)が増加するため、血圧は高くなる

4:尿細管障害により,電解質排泄障害をきたし,カリウム血症となる。

4. 代謝性アシドーシスは、酸の産生や摂取の増加、消化管や腎臓からの HCOの喪失により引き起こされる酸の蓄積である。慢性腎不全は代謝性アシドーシスの原因となる。

2:エリスロポエチンの産生が低下し,腎性貧血となる.

3:髄質障害により,尿濃縮力低下による夜間多尿がみられる。尿閉とは,尿が膀胱に貯まるが排泄できない状態で,下部尿道の閉塞などにより生じる.

5:活性型ビタミンDの産生低下,副甲状腺ホルモンの増加などによって, CKD-MBD (CKDに伴う骨ミネラル代謝異常)が生じ,血管の石灰化, 線維性骨炎, 骨軟化症, 無形成骨症などをきたす。

5. 腎不全によってリンの排出機能が低下し、血中リン濃度が上昇する。また、活性型ビタミン D3の産生が低下し、腸管からのカルシウム吸収も低下することにより低カルシウム血症となる。そのため、リンとカルシウム濃度の異常を調整しようと副甲状腺ホルモンの分泌が増加するため、骨吸収が増加し骨強度が低下する。
①上月正博(編) : 腎臟藏リハビリテーション 第2版, pp145-148, 186-202, 医歯薬出版, 2018, ②前田眞治, 他標準理学療法学, 作業療法学 内科学第3版, pp270-281, 医学書院, 2014. ③医療情報科学研究所(編) : 病気がみえるvol. 8 腎, 泌尿器, p47, pp216-219, メディックメディア, 2014. ①医療情報科学研究所(編) : 病気がみえる vol.8腎, 泌尿器, 第2版, メディックメディア, p. 20, 216-219. ②松尾務美 (編) : PT·OT ビジュアルテキスト 内部障害理学旅法学, 第1版, 弟:北社, p.284. 

1. 腎不全による透析対象者数は年々増加傾向にある。

3. 透析導入の原因疾患は糖尿病性腎症が最多で、次いで慢性糸球体腎炎が続く。

腎移植・血液透析・腹膜透析

4. 血液透析導入初期は、悪心や嘔吐、頭痛、痙攣などの不均衡症候群がみられやすい。

2, CKDにおいて、高血圧や心不全徴候がみられやすいのは体液過多状態の透析療法開始前である。

1.アルブミン血症によって体液量が増加し血圧が高くなることから循環動態が不安定である。

1. 透析前は体内にカリウムが蓄積されるため不整脈や頻脈となりやすい

4. 尿細管障害によってカリウムイオンの排泄が阻害されるため血中カリウム濃度は上昇し、高カリウム血症となる。重篤な高カリウム血症は心室細動などの致死性不整脈心停止をきたすことがあるため、注意が必要である。

5. 透析療法終了後は血液透析による短時間の水分除去により、低血圧などの循環系への負担を生じる

5.透析後は急激な体液バランスの変化によって。倦怠感などの自覚症状が強く出現する。
①奈良勲. 他(シリーズ監修), 前田眞治,他 : 標準理学療法作業療法学 專門基礎分野, 内科学, 第3版, 医学書院, p. 280-281. ②上月正博 : 新編内部障害リハビリテーション, 第2版, 医歯薬出版, p.213-215. 

 

重症度に応じて行われるのは主に蛋白質、食塩の摂取制限を中心とした食事療法である。なお、栄養障害に陥らずに効果的な低蛋白食を実現するために必要なのが、炭水化物(糖質)や脂質による十分なエネルギー摂取であり、低蛋白食を強化するほど摂取エネルギーを増加させる必要がある。

栄養障害を防ぐ必要もあるため,エネルギー必要量は健常者と同じくらいを目安にするが, CKDステージの進行に応じて蛋白質, カリウム,ナトリウムの摂取制限をする。

慢性腎臓病 (CKD) 患者は。肥満や栄養障害を防ぐために食事指導を行う。アルコールは適正飲酒量を超えないようにする。 水分の過剰摂取や極端な制限は控える。 食塩の過剰摂により高血圧を招きやすい。ため,食塩摂取量を6g/日未満とする。 CKDステージ3~5では蛋白摂取制限を行う。 日常の身体活動量を制限する必要はない

 

CKD患者の有酸素運動は週3~5日、レジスタンス運動は週2~3日が推奨される。血液透析患者は、透析直後を避け、非透析日に実施する。

また、運動強度は Borg 指数で11~13とし、酸素摂取予備能40~60%とする。なお、肥満,メタボリックシンドロームを伴うCKD 患者においても、運動療法は減量および最高酸素摂取量の改善に有効である。

1. 有酸素運動は週3~5日、持続的に運動を行う(20~60分。ただしこれが耐えられなければ10分間の間欠的運動とする。)

2. レジスタンス運動は週に2~3日、10~15回反復で1セットとし可能であればセット回数を増やす。

4. 運動強度は Borg指数 11~13程度を目標とする。

2:心肺運動負荷試験が施行可能であれば,嫌気性代謝閾値(AT)を測定し, ATレベルの運動負荷もしくは目標心拍数を設定し,運動療法を施行することが望ましい.

5. 運動処方の考え方は、CKD患者は心疾患を有する場合が多いため、慢性心不全患者高血圧患者の運動療法に準じたものである。 

1. 病期分類ステージ5の症例では2~3METS の運動強度が目安で、尿毒症症状の悪化に注意しながら日常生活強度を維持する程度の運動とする。5~6METS はステージ2の症例に適応となる。

1. 最近は透析の最中に下肢エルゴメーターを使用した有酸素運動を行うようになってきている。

1. 血液透析透析直後でなければシャント側の手の運動も可能である。

3. 血液透析を受けながらの運動療法は推奨されている。透析中の運動により、

①蛋白同化が促進

②リンなど老廃物の透析除去率が高まったりするためである。

注意点は、

低血圧反応を予防するため透析開始 20分以上経過し、透析療法が安定した透析前半に行うこととする。

5:2~6か月の有酸素運動により.筋肉量,type I線維の割合,毛細血管やミトコンドリアが増加し,運動耐容能が17~23%程度改善する。

1:有酸素運動レジスタンストレーニングを併用した場合,運動耐容能は運動療法前と比較して41~48%程度改善する。

3:長期透析療法を行うと,骨,軟骨,滑膜などの骨組織にB,ミクログロブリンなどに由来するアミロイド線維が沈着して,骨関節痛が生じる透析アミロイド症が出現する可能性が高い,透析アミロイド症には,手根管症候群,破壊性脊椎関節症,骨囊腫などが含まれる.

4:透析期間が1年増加するたびに透析患者の10%が新たに心不全症状を呈する.

2. 透析対象者の死亡原因では心不全が最多で、次いで感染症が続く。その他、悪性腫傷や脳血管障害が死亡原因となることもある。①山崎裕司, 他(編) : シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト, 改訂第2版, pp139-140, 南江堂, 2012. ①上月正博(編著) : 新編内部障書のリハビリ職学会(編) : エビデンスに基つづくCKD診療ガイドライン2018, 東京医学社, p.53-54. 

4. 蛋白異化は安静により促進され、筋肉量減少につながる。

memo CKDでは、筋肉の蛋白質代謝が悪くなり、筋の萎縮を起こす。運動により蛋白質の分解を抑制するだけでなく、細胞内の蛋白合成と前駆細胞の機能を調節する細胞内シグナルを修復する。

1. 保存期慢性腎臓病(CKD) 患者は、 腎機能が低下するにつれてサルコペニアの割合が増加する。 CKD患者にみられるサルコペニアは、骨格筋の萎縮や質の低下をまねき、握力の低下、歩行スピードの低下につながる。

5. 前腕静脈サイズは特に等張性運動により増加する。血液透析のためのシャント血管としての役割を果たしやすくなる。
①上月正博 : よくわかる内部疾患の運動療法, 医歯薬出版, p.176-192. ②高橋哲也 : 内部障害理学療法学, 医歯薬出版, p. 257-262. ③西澤良記(監修), 稲葉雅章, 他 : 透析運動療法~健康長寿を実現するために~, 医薬ジャーナル社, p. 56-57. 

 

【老年医学】

フレイル(frailty)は、老化に伴って筋力や活動が低下している状態を指し、健常な状態と要介護の中間的な位置付けとされる。一般にその定義は、体重減少、疲労感、活動量低下、緩慢さ(歩行速度低下)、筋力(握力)低下の5項目を診断基準とし、3項目以上該当するとフレイルと診断される。
①奈良 勲. 他(シリーズ監修), 大内尉義(編) : 標準理学療法学, 作業療法学専門基礎分野, 老年学, 第4版, 医学春院, p. 67-70. ②原田 敦(監修), 長寿科学研究開発事業「加齢による進動器への影響に関する研究一サルコペニアに関する包括的検討一」研究班 : サルコペニア診療マニュアル, メジカルビュー社, p. 48-51. 

1. サルコペニアの診断には、握力歩行速度の測定、 筋肉量の測定が行われる。心肺運動負荷試験は、運動耐容能の評価や運動処方などのために用いる。
2. サルコペニアの概念では身体的問題のみが着目されるのに対し、フレイルの概念には、身体的問題のみでなく、認知機能障害やうつなどの精神· 心理的問題、社会的問題も含まれる。
3. フレイルは、サルコペニアを含むより広義の高齢期機能減退状態を意味する。
4. サルコペニアになったとしても、 適切な介入により、再び健常な状態に戻ることが可能である。
5. フレイルは、障害によって要介護になる一歩手前の段階である。要介護となる前のフレイルの時点であれば、高齢者を剛健な状態に戻すことができると考えられ、リハビリテーション介入する必要がある。
①上月正博 : 新編 内部障害リハビリテーション, 第2版, 医歯薬出版, p. 29-32. ②福井図彦(監修), 前田真治 : 老人のリハビリテーション, 第8版, 医学書院, p. 301-302. ③奈良勲(シリーズ監修), 内山 靖 · 他(編) : 標準理学療法学 専門分野, 理学療法評価学, 第3版, 医学書院, p. 190. 

 

呼吸機能の評価は呼吸器疾患の診断や治療において不可欠なものである。呼吸機能測定により

換気機能障害の有無、程度および鑑別診断、【空気を肺に出し入れする機能

呼吸機能障害に対する治療効果の判定、予後の診断、【酸素を肺から血液中に送り込み、二酸化炭素を血液中から体外に運び出す機能

③患者の活動能力の判定、手術侵襲に対する危険度の診断、

④呼吸不全の診断、酸素治療や呼吸管理の選択、効果判定などが臨床的に評価できる。

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease ; COPD)は夕バコの煙を中心とした有害なガスあるいは粒子の吸入に起因する、閉塞性換気障害を示す肺の炎症性疾患である。

4:慢性閉塞性肺疾患や気管支炎などの気道内病変では痰を喀出するための湿性咳が生じるが、

間質性肺炎咳受容器が直接刺激される疾患(咳喘息など)では痰の喀出を伴わない乾性咳が生じる。

4. 肺コンプライアンスとは肺の弾性(広がりやすさ)を示す。慢性閉塞性肺疾患では肺胞構造が破壊されるため肺コンプライアンスが上昇する

1、3:肺胞が破壊されて肺が過膨張となるため、肺弾性収縮力の減少とともに全肺気量(TLC)が増加し、また残気量(RV)も著しく増加(=肺コンプライアンス上昇)する。

肺気腫(下の白モヤ=分泌物の貯留)f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200126231332j:image

CT所見では肺野全体の透過性が亢進し気腫性変化を認める(そのため黒く見える)。病変は広範になっていることから重度の慢性閉塞性肺疾患であることが考えられる。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200128093412j:image

2. 肺野の過膨張により心臓は圧迫され、滴状心となる。滴状心は胸部エックス線写真で確認しやすい。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200128154719j:image

2、5:気道抵抗が高くなるため呼気気流障害が認められ、1秒量(FEV1)は著明に減少し、努力性肺活量(FVC)も減少する。
memo COPDでは、空気のとらえ込み現象により、肺活量に比べて努力性肺活量が低下する。

1. 1秒量(FEV1)は低いほど予後不良である。

4:安静呼吸においても高肺気量位であるため、最大吸気量(IC)は減少する。

①前田眞治,他:内科学,第3版,標準理学療法作業療法学(專門基礎分野),医学書院,2014, pp 108-111,pp 118-120.②居村茂幸(監): ビジュアル実践リハ呼吸,心臟リハビリテーションーカラー写真でわかるリハの根拠と手技のコツ,改訂第2版,羊土社,2015,

パイロメータにより肺容積の変化量が計測でき、縦軸に肺の容積変化、横軸に時間経過をとりグラフにしたものを肺気量分画という。肺活量と、息を吐くときの空気の通りやすさを調べます

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131120155j:image

1.①は全肺気量(TLC)であり、最大吸気位から最大呼気位まで換気(呼吸器の中に出し入れ)できる最大量を示す。
2. ②は予備吸気量(IRV)であり、安静吸気位から最大吸気位までの吸気量である。安静呼気位から最大吸気位までは最大吸気量(IC)である。
3. ③は一回換気量(TV)であり、成人では約500 mLとされている。
4. ④は予備呼気量(ERV)であり、安静呼気位から最大呼気位までの呼気量である。ERVと最大吸気量(予備吸気量+1回換気量)を足すと肺活量になる。
5. ⑤は残気量(RV)であり、最大呼気位後もさらに肺に残っている量である。死腔とは呼吸においてガス交換に関与しない部分を指し、その大きさを死腔量という。死腔量は肺気量分画の区分には含まれない

5. TV (1回換気量)とIC (最大吸気量) の比で運動時の換気予備能の指標である。健常者は運動時でも0.6を超えない。拘束性肺疾患だと0.8を上回ることもある。

フローボリューム曲線は縦軸に気流速度(フロー)、横軸に最大呼気努力曲線で得られる肺気量をプロットする。形により気道のどの部分が閉塞しているか判定が可能であり、呼吸障害の評価(呼出障害を評価)をすることが可能である。図は、ピークフロ一値が低く、下に凸の曲線となっており慢性閉塞性肺疾患にみられる曲線である。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200205183040j:image

吸気の開始から再び吸気に至るまでを、肺気量とフローの関係で示したものである。
① (縦軸) : 呼気気流速度(L/秒)
② 最大吸気位
③ 最大呼気流量(ピークフロー)
測定した呼気流速の最大値のことである。
④ 最大呼気位
⑤ (横軸) : 肺気量(L)

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200205183325j:image

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200128095841j:image

3. 閉塞性換気障害を呈し気道の虚脱などにより呼出制限が生じると考えられ、フローボリューム曲線では1秒量の低下を示す。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131122053j:image
1. 呼気努力不足ではピークフローは減少するが、図のような下に凸のグラフではなく、緩やかな曲線を描く。
2. 無気肺は拘束性換気障害を呈し、末梢の気流速度の著しい低下はみられず、上に凸の曲線となり、肺気量が減少して曲線の幅は小さくなる。
3. 肺線維症では拘束性換気障害を呈して気量(横軸)が減少する。
4. 上気道閉塞は、気流速度の最大値(ピークフロー)が検出されず、平坦になる。
上月正博(編著):新編 内部障害リハビリテーション、第2版、医歯業出版、p. 65-66.高橋哲也 (編):ビジュアルレクチャー内部障害理学療法学、医歯薬出版、p.21-23

COPD患者さんでは、息が吐き出しにくくなっているため、1秒量(FEV1)を努力肺活量(FVC)で割った1秒率(FEV1%)の値が70%未満のとき、COPDと診断されます。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131132136j:image

また病気の進行に伴い、1秒量が予測値(年齢、性別、体格が同じ日本人の標準的な値)よりも低くなっていきます。COPDの病期は予測1秒量に対する比率(対標準1秒量:%FEV1)に基づいて分類されます(下記の表を参照)。また、呼吸機能に加えて、長期の喫煙歴などの危険因子、労作時の呼吸困難、慢性的なせきやたんなどから総合的に診断されます。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131132230j:image

参考: COPD慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版(日本呼吸器学会)

血液ガス正常値(動脈血)

pH : 7.400±0.05
pCO2 : 40±5mmHg

pO2 : 104 – 0.25×年齢mmHg( 80 ~ 100 ) 
BE : -3 ~ 3mmol/L
HCO3- : 24±2mmol/L
SaO2 : 97~98%

①データから分かることは三つ
1 .肺の働きとその良否 → PaO2
2 .換気は十分か → PaCO2
3 .酸塩基平衡は良好か → pHとPaCO2
肺の働きの良否はPaO2でわかる

②PaO2 でわかるのは二つ
1 全身への酸素供給は充分か
2 肺は酸素を正常に摂取しているか,

③改善に向かうのか 悪化しているのか?
酸素解離曲線移動の生理
1 酸素は右方移動で放出しやすく左方移動で放出しにくくなる
2 右方移動はいろいろに利用
3 運動(高温・pH低下),貧血・チアノーゼ(2,3DPG)で右方移動
4 左方移動利用の例は胎児
妊娠末期には母体の酸素解離曲線は右方移動 胎児の血液の酸素解離曲線は左方にある。

④酸素解離曲線の意義
1 肺胞レベルで飽和度が高い:大量に取り込む
2 静脈レベルで飽和度が低い:大量に渡す
3 特に、臓器の活動が活発な時に有用度大
4 安静時での意義は高くないが活動時や血流が障害された状況で有用

⑤酸・塩基の定義 酸・塩基の定義

酸 : H+を離す
例) HCl → H++ Cl‐ 
         H2CO3 → H++HCO3‐

塩基 : H+を受けとる
例) NaOH → Na+ + OH‐
         NH3 + H2O → NH4++ OH‐f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131143811j:image

PaO2が 60 Torr 以下のものを呼吸不全といい, そのうち PaCO2が 45 Torr 以下のものがI型呼吸不全,45 Torr 以上のものがⅡ型呼吸不全である。

重症例に対する呼吸リハビリテーションでは、

コンディショニング基本的 ADL トレーニンを主体とする。

コンディショニングには呼吸練習やリラクゼーション、 胸郭可動域練習、ストレッチ、 排痰指導などが含まれる。

2. 呼吸効率は横隔膜(腹式)呼吸が良好である。1回換気量を増大させるために腹式呼吸を促す。胸式呼吸は1回換気量が減少し呼吸回数が増加しやすいことから分時換気量が低下し呼吸苦を助長する。口すぼめ呼吸も有用である。

1. 横隔膜は収縮により下方に引き下がる。

横隔膜呼吸の指導方法

2. 患者を背以位にし, 膝の下に枕やクッションを入れて腹部にゆとりをもたせる

2. 患者自身で、利き手を腹部他方の手を上胸部に乗せることにより、呼吸による手の動き(胸部にていた手と腹部に置いた手の動きをみる)と、呼吸の速さ(安静時の自然な呼吸で吸気と呼気の速さ)を確認することができるセルフモニタリング法となる。背臥位で行うとより呼吸に合わせた腹部の動きを目覚しやすい。

2. 練習時間は3~5分程度の短時間とする.また, はじめはファーラー位やセミフーーラー位で練習し, 徐々に座位、立位でも行えるようにしていく。

3. 1回換気量が増大し、呼吸数、分時換気量が減少し、換気効率が改善する。換気量が一定以上に増えたり、呼吸数が増えたりして分時換気量が増加すると、有効な換気量が減少し換気効率は悪くなる。

5. 呼吸仕事量が減少し、酸素消費量が減少する。

3. 横隔膜呼吸は横隔膜による活動を促すことで、呼吸補助筋の活動が抑制され呼吸困離感が減少する。
1.呼吸補助筋を使用❌すると努力性呼吸となり換気効率が悪くなる。主動作筋の横隔膜呼吸を促す必要がある。
4. 呼吸補助筋の過緊張呼吸運動に関係なく持続的な張力が発生する。 したがって呼吸困難の原因にもなることからストレッチなどでコンディションを整えることで呼吸苦を軽減できる。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129180008j:image
5. この患者は更衣動作で呼吸苦を訴えているため、ADL動作はまずは基本的なものから動作を見直す必要がある。動作に合わせた呼吸を意識させ、 呼吸苦を増悪させない動作の指導を行う。 呼吸苦の状態に合わせて徐々に病室内·病棟内歩行、さらには実際の生活場面の中で応用的な内容へと進めていく。

 

呼吸リハビリテーションは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の日常における症状を緩和する。COPD 患者に対する理学療法は、

コンディショニング、全身持久力トレーニング、筋力トレーニング、 ADL トレーニングで構成されている。

その中核は全身持久力, 筋力トレーニンなどの運動療法であり、 エビデンスが確立されている。

1. 呼吸筋力に対する訓練は主に吸気筋に対して実施する。吸気抵抗負荷法や腹部重錘負荷法などがある。
2. 胸郭可動域は、胸郭各関節の可動性低下や動的過膨張、努力性呼吸により呼吸筋が過緊張状態となることで制限されやすい。可動域の制限により呼吸仕事量が増加し、呼吸困難感を生じやすいため、 呼吸介助法や徒手胸郭伸張法、関節モビライゼーション、助間筋ストレッチなどを実施する。胸郭可動域訓練はコンディショニングに含まれる。

4. 下肢エルゴメーターや平地歩行、トレッドミル歩行などは全身持久力運動に含まれる。

5. 体位排痰法は、 排痰困難な患者に対して重力を利用して痰のを促すもので COPD 患者に適応である。

5. 口すぼめ呼吸は、主に閉塞性換気障害の患者に行われる。口をすぼめて呼気を行うことによって気道内圧を高め、末梢気道を開存させる。これにより、気道の虚脱を防ぎ、呼気が十分に行えるようになり、その結果、吸気量が増加して良好な換気状態を得る

memo拘束性換気障害でも浅くて速い呼吸をしている場合には適応がある。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129142112j:image

1. 口をすぼめて息を吐くと気道内が陽圧になるため、 気道の閉塞の改善につながる.

1. 気道内圧の上昇により気道虚脱を防止する。

1. 口すぼめ呼吸は呼気の流速を減少させる。速い気流のあるところには、そこへ引き込まれるような力が発生する。つまり、狭い気道においては、速い気流によって虚脱しやすくなる(Bernoulli効果)。

memo口すぼめ呼吸では、虚脱しやすい気道に対して、呼気しはじめの流速が低下していることが利点となる。

1. 口すめ呼乎吸をしている時は、軟口蓋が挙上されて閉じるので、鼻腔側に空気が漏れ出すことなく圧を保ったまま呼気を排出することが可能となる。

3. また, 口すぼめ呼吸では,むやみに気道内圧を上昇させればよいというものではない. 30cm前方にかざした自分の手に息を吹きかけて,この息が感じられる程度でよい.(呼気を長く。呼気で4歩、吸気で2歩)

5.呼気は吸気の2倍の時間をかけて行うことから開始し、吸気と呼気の比は1:3~5を目標にして行う。

4. 呼吸数20回/分程度から開始し、10回/分程度を目標にして行う。

①石川 朗 · 他 : 15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 内部障害理学療法学 呼吸,  第2版, 中山書店, p. 74. ②玉木 彰 : DVDで学ぶ呼吸理学療法テクニック 呼吸と手技のタイミングがわかる動画91, 南江堂, p. 66. ③高橋仁美 · 他 : 動画でわかる 呼吸リハビリテーション, 第2版, 中山書店, p.130. ④黒澤一・他 : 呼吸リハビリテーション 基礎概念と呼吸介助手技,  学研メディカル秀潤社,  p. 82-83. ⑤細川多穗(監修), 山簡裕司, 他 : シンプル理学療法シリーズ内部障客理学煤法学テキスト改訂第2版, 南江堂, p. 216-217. ⑥石川朗(総編集), 泥木(責任編集) : 15 レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 内部障害理学療法学呼吸第2版, 中山書店, p. 74. ⑦高橋仁美, 他 : 動画でわかる呼吸りハビリテーション 第3版, 中山書店, p. 158-159. ⑧細田多穗, 他(編) : 理学療法ハンドブック 改訂第4版 , 第3巻 , 疾患別理学療法基本プログラム, 協同医書出版社, p. 459, 460. 

1:単位時間当たりの仕事量を減らすため、動作はゆっくりと実施⭕する.

2:荷物を持ち上げるような力を入れるときは呼気時⭕に行い、吸気時には力を入れないようにする。

3:排便時は息こらえをしないように、呼吸に合わせながら徐々に腹圧を高める⭕

4:階段を昇る際は、吸気よりも呼気が長くなるよう(吸気2段、呼気4段)に指導する。

5:更衣動作の原則は椅子に座ってゆっくりと行う⭕ことであり,下衣の場合は椅子に座り,体幹が前屈しないように呼気に合わせて片足ずつ行う⭕.

1. 歯磨き動作はブラッシングと.上肢の空間保持での頻回な運動により呼吸リズムが崩れることが多いが、 肘付き位で実践⭕することで上肢筋群の過剰な緊張を回避することができる。
2. 洗体タオルが短いと呼吸補助筋を過度に緊張させた動作となってしまう。 タオルに布ベルトで輪を縫い付けるなどして長さを補う⭕ことで、肘の運動を中心とした効率的な動作が可能となる。
3. 頭部よりも上方での動作は呼吸補助筋の活動を制限する。物干し竿(紐)の高さを低めに設定⭕するとよい。
4. 掃除機かけでは、上肢の頻回な運動により、 呼吸リズムが乱れる場面が多い。両手を使った体幹を届曲させた動作より、片手動作で体幹を起こして足を運びながらの動作に修正する⭕ことで呼吸リズムの維持を図ることができる。
5. 上肢中心の持ち上げでは、息こらえ動作となり呼吸困難が増悪することが多い。 物品をできるだけ重心に近い位置で持ち上げ⭕、上肢の筋を過剰に緊張させることなく実施するように工夫すると効率的に物品を運搬することができる。
①高橋哲也(編) : ビジュアルレクチャー 内部障害理学療法学第2版,  pp46-49, 医歯薬版, 2017. ②上月正pp82-106, 医歯薬出版, 2017. ③高橋仁美 : この 30題で呼吸理学療法に強くなる, 医学書院, p. 208-210. ④落合慈之(監修), 石原照夫(編) : 呼吸器疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社, p. 275-277. ⑤上月正博 (編) : 新編 内部隊害のリハビリテーション, 医歯薬出版, p.91-95. ⑥高橋仁美 他 : 動画でわかる 呼吸リハビリテーション, 第3版, 中山書店,  p. 256-259. 

 

呼吸器疾患や心疾患患者は運動に伴って呼吸困難を生じやすい。特に呼吸困難が強い場合、苦しさのあまり強い不安感とともにパニック状態になる患者がいる。パニックコントロールとは呼吸困難が生じた際に、落ち着いて呼吸を調節し、呼吸困難状態から回復することを意味する。

4. 呼吸練習の目的は、息切れやパニック時のコントロール、換気パターンの改善、腹部や胸部の筋系と呼吸との同期性、ガス交換の改善、呼吸リズムの整え方を身につける、などがある。

3. 呼吸苦が出現する際にはファーラー位、 セミファーラー位、起座位、 壁にもたれるなどの安楽な姿勢を選択する。

5, 壁や机などにもたれて上肢の重みを取り除き、体幹を支持するような前傾座位や前傾立位などの姿勢をとらせ、呼吸を落ち着かせる。

3. まずは安楽な肢位を取らせ、 患者にパルスオキシメーターで数値を見せながら、口すぼめ呼吸を実施する。呼吸数が減少し、 換気量が増加していく様子をパルスオキシメーターの数値で確認できると患者自身のフィードバックとしてよい。
1. 慢性閉塞性肺疾患患者などの肺過膨張がある症例には、下部胸郭を介助するよりも座位での上部胸郭呼吸介助法が有効である。
1. 座位での呼吸介助は、患者の背部から上部胸郭に対して介助手技を実施する。呼気に合わせて胸郭を斜め下方へ誘導する。

スクイージングー胸郭を絞るって、喀痰

ハッフィングー 基本的には座位で行いますが, 患者の状態によっては臥位や側臥位で行います。 末梢気道の分泌物を移動させる方法と,中枢気道の分泌物を移動させる方法で少し方法が異なります (図 77).

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200205200006j:image
いずれもリラックスした状態で軽く口を開口し,呼出を行います。
●末梢気道の分泌物を中枢気道へ移動させる場合:中等量以下の肺気量からゆっくりと持続的に「は~~~」 とゆっくり長く残気量位まで呼出を行う。
●中枢気道の分泌物を移動させる場合:高肺気量位からできるだけ速く強く 「はっ」呼出する。

少し多めに空気を吸い込み、声を出さずに。
「ハッ ハッ ハッ」と強く、早く、息を吐き出します。4~5回繰り返します。その後、咳などをして痰を出します。

3. 増悪を繰り返す例は、QOLや呼吸機能を低下させ生命予後を悪化させる。増悪による入院時には、

呼吸困難感、好酸球増多、肺炎、酸塩基平衡障害、不整脈の有無をみる。それらの程度が予後に影響する。

この患者はCOPDの急性増悪で緊急入院し、
血液ガス分析値から部分代償性呼吸性アシドーシスを呈した状態にある。

1:離床は可及的早期に実施することが推奨されているが、 発熱状況から考えるとエネルギーの消耗が大きい異化期にあると予想される。したがって、この時期はまだ積極的に離床や運動を実施する段階ではないと判断できる。

2:一般に横隔膜(腹式)呼吸は換気効率を改善し、呼吸仕事量の減少や呼吸因難感の軽減に効果的である。しかし、この患者の病期分類はⅢ(重症)で横隔膜機能の低下が考えられる
ため、横隔膜呼吸を行わせるとかえって吸気努力が増大し、呼吸困難感が増強する可能性が高い。

3:無気肺の原因として最も一般的なのは、喀痰などの貯留によって起こる太い気管支の片側閉塞である。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200129111031j:image

そのため、閉塞のきっかけとなった喀痰の排出は非常に重要であり、喀痰貯留部位と体位の関係を考慮した排痰を積極的に実施し、換気改善に努める。この患者は左無気肺であるため、右側が位をとって排痰を促しつつ左肺全体の換気を図る。

1. 体位排痰法は、気道に貯留している分泌物に対して、重力を利用して末消から中枢へ移動させることを目的として実施する。

1,3,8。2,10,6。9。 4,5。6,10。

4:左肺は無気肺を呈しているため、この時期には非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation NPPV) によって拡張を促し、換気改善を図ることが優先される。なお、NPPV はCOPD急性増悪時の換気補助療法の第一選択肢とされている。

5:左胸郭の拡張性は乏しいと考えられるが、胸郭可動域練習は特に拘束性換気障害に対する換気改善で重要となる(COPD は閉塞性換気障害)。この患者の場合、現時点では胸郭に対するトレーニングではなく、NPPVなどで肺そのものの拡張を促す介入を優先すべきである。

f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200131122403j:image

4.吸入ステロイド(inhaled corticosteroid : ICS) の予後改善効果はまだ示されていないが、重症例の増悪頻度を有意に減少させるため、予後改善効果が得られる可能性がある。
①石川朗(総編) : 内部障害理学療法学一呼吸,第2版15レクチャーシリーズ理学療法テキスト,中山書店,2017.pp 24-29, pp 43-45, pp 52-54, pp 74-85, p 149. HFE器学会 COPD ガイ
ドライン第5版作成委員会(編): COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン,第5版,メディカルレビュー社, 2018,p 139.

2. 栄養療法が生命予後を改善するエビデンスはないものの、低栄養状態や体重減少は予後不良因子であるため栄養状態の管理は必要不可欠である。

5. 呼吸リハビリテーションが予後を改善するというエビデンスは十分に得られておらず、呼吸リハビリテーション薬物療法や酸素療法などを併用することが重要である。呼吸リハビリテーション中核は運動療法(特に下肢運動)であるとされ、運動療法により運動耐容能を改善し、健康関連Q0Lを改善する。

Fletcher-Hugh-Jones分類

I度;同年齢の健常者とほとんど同様の労作ができ,歩行,階段昇降も健常者なみにできる。

II度;同年齢の健常者とほとんど同様の労作ができるが,坂,階段の昇降は健常者なみにはできない。

III度;平地でさえ健常者なみには歩けないが,自分のペースでなら1マイル(1.6km)以上歩ける。

IV度;休みながらでなければ50ヤード(約46m)も歩けない。

V度;会話,衣服の着脱にも息切れを自覚する。息切れのため外出できない。

呼吸困難(息切れ)を評価する修正MRC(MMRC)質問票

Grade0
激しい運動をした時だけ息切れがある。

Gradel
平坦な道を早足で歩く、 あるいは緩やかな上り坂を歩く時に息切れがある。
Grade2
息切れがあるので、 同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い、あるいは平坦な道を自分のペースで歩いている時、 息切れのために立ち止まることがある。
Grade3
平坦な道を約100 m、あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
Grade4
息切れがひどく家から出られない、 あるいは衣服の着替えをする時にも息切れがある。

最低週3回以上。できれば毎日行うのが望ましい

peakVOの40~80% の間で処方する

peakVOの60~ 80%で負荷する方法を高強度負荷,

peakVOの40~60%で負荷する方法を低強度負荷という

[220 -年齢] ×負荷強度(通常は40~80%の範囲で処方

修正 Borgで4 (多少きつい)~5 (強い)の運動強度で処方する
1回20分以上で行うことを目標とする。ただし運動導入時は5分程度から開始し,徐々に伸ばすようにする

自転車,エルゴメータ, トレッドミル,ハンドエルゴメータ,平地歩行など

なお、予後改善のエビデンスAとされているものには、禁煙、インフルエンザワクチン、長期(在宅)酸素療法(LTOT/HOT)などがある。
①参考文献 (一社) 日本呼吸器学会COPD ガイドライン第4版作成委員会(編) : COPD (優性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン、第4版、 メジカルビュー社、p.105-117.②黒澤一·他:呼吸リハビリテーション基礎概念と呼吸介助手技、学研メディカル秀潤社、p. 92-95

 

厚生労働省が2010年に発表した報告書「チー
ム医療の推進について」 では、 気管吸引は医療従事者である理学·作業療法士言語聴覚士が実施する必要のある行為として認められている。気管吸引は気道分泌物の除去だけでなく“気道の開存"も目的としているが、吸引操作は侵襲的かつ盲目的処置であるため十分なリスク管理のもと実施しなければ、患者の安楽な呼吸どころか、 かえって苦痛,合併症を招くことになる。したがって実施要領は確実に習得する必要がある。

吸引操作は侵襲的な医療行為であるため、 安全かつ適切に実施されなければならない。そのために吸引カテテーテルの取り扱いや感染予防策について理解する必要がある。
1. 吸引を実施する際には手を洗い、滅菌手袋やエプロンなどを装着する。感染対策として手袋を取り外した後も抗菌性の石鹸またはアルコール製剤を用いた手指消毒を行い、一過性微生物を除去あるいは殺滅することが必要である。

1. 一般に吸引カテーテルの外径は、気管チューブ内径の1/2以下のものを選ぶ。

1. 咳は吸引中ではなく吸引前に行い, 痰を上気道に移動させておく。

1. 吸引圧は成人で最大150 ㎜Hg、すなわち20 kPaを超えないようにする。 それ以上の吸引圧で吸引すると、肺が虚脱して無気肺になる恐れがある。

1. 吸引圧は最大で150mmHg であり、これを超える吸引圧は気管支撃縮といった合併症を引き起こす可能性がある。なお、小児では 120 mmHg程度が推奨されている。

1. 吸引操作中の吸引カテーテル上下にピストン運動❌させたりしてはけない(特にピストン運動は気管壁を損傷するおそれがある).

1:基本的に吸引カテーテルを回転❌させながら吸引する必要はない(あまり意味がない)。

1. 吸引カテーテルの先端が気管分岐部に達すると気管支を傷つけてしまったり攣縮したりする可能性があるため、挿入部は気管分岐部の手前までとする。

1. 吸引カテーテル挿入時は、 基本的に陰圧をかけない。陰圧をかけるのはカテーテルの挿入後、 引き戻して吸引を行うときである。

1. 気管や気管支壁の損傷を避けるために挿入中は吸引の吸引圧を止めておき、カテーテルを引き戻すときは吸引圧をかけながら行う。

1. 1回の吸引時間(カテーテルを気管に挿入している時間)は10~15秒以内とし、そのうち実際に陰圧をかけて吸引する時間は10秒以内にすべきである。 これは吸引によって気道内分泌物だけでなく肺内の酸素も同時に吸引してしまうためであり、10秒以上の時間がかかると低酸素血症などの危険性が高まる。

1. 吸引操作中の SpO295%以上を維持する(低酸素血症を起こさないように SpO2が安全な範囲にあることを確認する)

 

間質性肺炎は、肺胞隔壁を炎症,線維化病変する疾患の総称である。膠原病などの全身性疾患に付随して発症する場合と、原因が特定できない特発性間質性肺炎がある。

1. 間質性肺炎では、エックス線上,すりガラス樣小粒状影,網状,輪状験影がみられる、肺コンプライアンスは低下し、パチパチとな髪音が聴かれる、横隔膜は挙上する。初期症状に乾性咳嗽と息切れが現れる。
1. 間質性肺炎の呼吸機能検査では通常、拘束性換気障害や拡散障害を認める。
2. 主要症状として乾性咳しやバチ状指がみられる。
3. 間質性肺炎の特徴は、拘束性障害に加え拡散障害があるため、安静時に低酸素血症が無くても労作時に著しく低酸素血症を示すことが多く、SpO2をモニタリングした運動耐容能、ADL動作の評価が重要である。
4. 胸部聽診上、両側下肺野を中心に吸気時に捻髪音が聴取される。
5. 血液検査では、血沈亢進、CRP.LDH.SP-A.SP-D.KL-6 の上昇などがみられる。なかでもKL-6はムチンの一種MUC-1上のシアル化糖鎖抗原で、特発性間質性肺炎の特異的なマーカーである。
高橋哲也(編): ビジュアルレクチャー 内部障害理学療法学、第2版、医歯薬出版、p. 58-60. 細田多穗(監修)、山﨑裕司(編):シンプル理学療法学シリーズ 内部障害理学療法学テキスト、改訂第2版、南江堂、p. 154-156.奈良 勲(シリーズ監修)、前田真治.他(編):標準理学療法学.作業療法学基礎専門分野、内科学、第3版、医学書院、p.125

 

誤嚥性肺炎

 

気管支喘息は、気道の慢性炎症性疾患である。慢性炎症により、気道過敏性が上昇し、繰り返す喘鳴、息切れ、咳喇がみられる。
1. 気管支喘息では、発作性の呼吸困難や喘鳴、咳嗽を生じる。咳嗽は夜間や早朝に生じやすい。
2.肺の一酸化炭素拡散能は、基準範囲にある。基準值よりも低値を示すのは慢性閉塞性肺疾患である。
3. 気管支~細気管支壁には炎症細胞浸潤、気道粘膜下浮腫、気管支腺や杯細胞の増生がみられる。
4. 肺機能検査では、喘息の発作時に残気量の増大、機能的残気量と全肺気量の増加がみられる。
5. 一般に、治療では、長期管理で喘息症状の改善や維持、呼吸器機能の正常化や維持を目的とし、段階的薬物療法が行われる。
①参考文献 奈良 勲,他(シリーズ監修)、前田填治,他:標準理学療法学,作業療法学 專門基礎分野、内科学、第3版、医学書院、p. 122-123.②奈良勲,他(シリーズ監修)、横井豊治,他(編) : 標準理学療法学,作業療法学専門基礎分野、病理学、第4版、医学書院、p. 140

 

5. 1型糖尿病は、ウイルス感染や膵島細胞に対する自己抗体の産生に起因する自己免疫機序によりいB細胞が破壊され、インスリンの絶対量が不足する。そのため、インスリン注射が治療上必須となる。

2:糖尿病は血管構造を弱化させる.血管の閉塞や破綻が生じ,脳卒中,腎障害,眼障害,未梢神経障害などが引き起こされる.

糖尿病の三大合併症は

①糖尿病性網膜症、

②糖尿病性腎症

糖尿病性神経障害はこの中で最も発症頻度が高い

1. 糖尿病性神経障害は

①多発神経障害と

②単神経障害に分けられ、多発神経障害の方がよくみられる

多発神経障害は広汎性左右対称性神経障害であり、

足のしびれ、ほてり、痛み、腓腹部の有痛性攣(こむらがえり)などがみられ、

典型例として四肢未端(手袋・靴下型)のしびれ、自発痛、感覚鈍麻などの異常感覚を呈するなどの感覚運動神経障害がみらる。

memo 深部感覚では、下肢の振動覚の低下がみられるのが特徵である。

発汗異常、起立性低血圧膀胱障害(低活動性膀胱)などの自律神経障害を認める。

一方、単神経障害では、

脳神経障害や四肢,体幹の神経障害、筋萎縮などを呈する。

memo 筋力低下は下肢で生じやすい。筋力の低下はADL 上問題が発生しにくい範囲であることが多いがパフォーマンス低下により転倒のリスクが増す要因となる。

糖尿病の合併症の中で、血管の障害は細小血管障害と大血管障害に分けられ、

細小血管障害

糖尿病性網膜症、

糖尿病性腎症、

糖尿病性神経障害がある。

大血管障害は糖尿病自体が危険因子となる

脳血管障害や

虚血性心疾患などの全身の動脈硬化性疾患を指す。

1. 糖尿病の三大合併症の一つである網膜症の早期には、毛細血管瘤が検出される。その後、網膜の中間層の出血としてしみ状出血、網膜表層の出血として線状、火炎状出血をきたす。

高血糖が持続すると毛細血管や細小動脈の細胞が障害される。血管が細ければ細いほど, 高血糖による障害をうけやすい。 体内でも特に細い血管をもつ網膜では, 糖尿病の合併症が現れやすい。

2. 浮腫や蛋白尿は糖尿病性腎症の症状である。

持続的な高血糖状態から、血液濾過機能である糸球体の機能,構造に異常が起こり、老廃物や余分な水分が排出されず蛋白尿や浮腫が生じる。

①石川朗(総編) : 内部障害理学療法学一循環.代謝, 第2版, 15 レクチャーシリーズ理学療法テキスト, 中山書店, 2017, pp 102-109, pp 153-162. ②松尾善美(編) : 内部障書理学療法学, PT .OT ビジュアルテキスト, 羊土社, 2016.pp263-280. 

3:Charcot 関節は脊髄ろうや糖尿病などの感覚神経障害の結果として生じる関節の退行性疾患である。

3. Dupuytren 拘縮は,手掌腱膜の線維腫症で糖尿病やてんかんに合併する

1. コリンエステラーゼは高値に上昇

コリンエステラーゼ(ChE)はコリンエステルをコリンと有機酸に分解する酵素で、アセチルコリンのみを加水分解するアセチルコリンエステラーゼ(真性ChE)とブチリルコリン等に作用しコリンと有機酸に分解するブチリルコリンエステラーゼ(偽性ChE)の2種類があり、通常、ChEは後者を意味します。

ChEは肝細胞で産生される蛋白で、血中半減期アルブミンよりも短く、酵素活性で測定できることから、鋭敏な肝臓の蛋白合成能の指標として肝機能検査に用いられています。

血清ChE高値は肝細胞での産生亢進により、高栄養状態、蛋白合成や脂質代謝の亢進を反映すると考えられ、過栄養性脂肪肝、糖尿病、ネフローゼ症候群甲状腺機能亢進症などがあります。

一方、血清ChE低値は肝機能低下と低栄養状態があり、急性・慢性肝炎や肝硬変、急性重症感染症、慢性消耗性疾患、悪性腫瘍などがあります。ChE阻害作用を有する薬剤の服用でも低下します。

1. HbAlc は、過去1~2か月の血糖コントロール状態を反映する。6.5%未満では、血糖コントロール状態は良好である。

3. 糖化へモグロビン(HbA1c) は、血液中で赤血球内部のヘモグロビン蛋白に糖が結合したものである。赤血球の寿命は約120日であるため、HbAlcは1週間~ 4か月前程度の平均血糖が反映される。
3. CRP は0.30 mg/dL未満が正常値である。

1. 運動療法は、食後の消化を妨げないよう、食後30分程度してから開始する。

1. インスリン療法は種類によって異なるが,通常は食事30分前に皮下注射をすることが原則で, インスリン投与後30分以内に食事をし,食後1時間経過してから運動を開始する。

1. インスリンの種類,投与部位や時間を確認し,効果を考慮しながら実施する(注射部位の運動は避ける).

1. インスリン療法を行っている糖尿病患者では、 低血糖の合併に注意が必要である。食前やインスリン注射後はそのリスクが高いため、食後すぐの運動は実施すべきでない。

1. 激しい口渇は高血糖の症状である。

1. 空腹時血糖値が高い場合は運動療法は禁忌である、冷汗は低血糖発作の予兆であるため,症状を確認しながら運動を進める.

1. 低血糖発作では、空腹感や脱力感、動悸、冷汗、筋肉のふるえ、頭重感などを生じる。

4:血糖値が低下すると,インスリン拮抗ホルモンであるカテコールアミンの分泌上昇し,冷汗,頻脈,顔面蒼白,振戦といった交感神経刺激症状が出現する.またさらに低下すると,脳.神経細胞代謝が低下し,頭痛,空腹感から,傾眠,昏睡までの中枢神経症状を呈する.

1. 糖尿病の運動療法では,インスリン投与中でも,血糖コントロールの状態に合わせて,運動療法を継続して良い

2. 空腹時血糖が110~125 mg/dL では血糖コントロール良好と判断され、積極的に運動療法を実施すべきである

50 歳の男性。糖尿病性腎不全で週3回の血液透析インスリン療法とで治療中である。最近、両足しの痛みを訴えている。本患者は腎不全や足趾の疼痛を訴えるなど合併症を有し
ており、負荷設定は慎重に行うべきである。

運動療法では下肢の皮膚色に注意しながら運動を行う

5. 糖尿病患者において、フットケアは重要である。けっぺい、爪、皮膚のケア、足浴、熱傷予防など患者教育を必ず実施し、その上で運動療法を行う。

4. 網膜症は糖尿病の3大合併症のひとつである。単純性の網膜症がある場合注意して運動を実施できる. 

4. 増殖性網膜症の場合に運動療法は禁忌である。

1. 増殖網膜症がある場合は,運動強度を軽くし,散歩程度の有酸素運動が望ましい.

1. 血圧と視力低下を有していることから網膜症が考えられる、血圧上昇により,脆弱な新生血管の出血が誘発されることがあるので,等尺性収縮❌のような血圧上昇を誘発する運動は
避ける.

糖尿病患者における増殖網膜症では,激しい活動❌血圧上昇を伴う運動❌, 身体 (特に頭部)に衝撃が加わるような運動❌により, 硝子体出血や網膜剥離を起こす危険性があるため,運動療法が禁忌となる. 網膜症の重症度を把握しておく必要がある。

5. 尿ケトン体が中等度以上陽性の場合、運動療法は禁忌である。

空腹時血糖250mg/dL 以上で, 尿ケトン体が陽性など代謝状態が不良のときには運動療法としての運動は禁忌とされている。 しかし、運動を中止し安静が床を選択するとインスリン感受性改善効果が2~3日で低下する傾向を示す。 この場合の対応としては、全身運動に近く毎日実施できる病棟内歩行程度の軽度な負荷にとどめることが望ましい。

5. 末梢神経障害による下肢の痺れは糖尿病患者で頻度が高い。下肢の痺れに対しては歩行が有効である。

糖尿病の運動療法は, 運動強度が中程度以下(最高酸素摂取量の40~ 60%)の大きな筋群を使って行う有酸素運動が基本とされています。

1. 運動量は1日160~320kcal 程度を目標とし、有酸素運動レベルで行う。

1. 有酸素運動などで、 運動強度をあまり上げずに 20分程度行うことが望ましい。

有酸素運動の例として,

ウォーキング, 速歩。サイクリング, ラジオ体操, 水泳, 水中ウォーキングなどがあげられます。

①上月正博(編著) : 新編 内部障害リハビリテーション, 第2版, 医幽業出版, p.283-287. ②高橋哲也(編) : ビジュアルレクチャー内部障害理学療法学, 医歯薬出版, p. 245. ①前田眞治, 他 : 標準理学療法学, 作業療法学 内科学第3版, pp241-242, 医学書院, 2014. ②医療情報科学研究所(編) : 病気がみえるvol. 3 糖尿病, 代謝, 内分泌 第4版. pp66-67. メディックメディア, 2014.

 

閉塞性動脈硬化症(ASO)は末梢動脈疾患(PAD)のうち,慢性動脈閉塞症としてFontaine分類
により分けられる。

Fontaine分類

Ⅰ. 無症状、Ⅱ. 間欠性跛行、Ⅲ. 安静時痛、Ⅳ. 壊死

ABI (足関節上腕血圧比)

足首の最高血圧を上腕の最高血圧で割った値である。この値によって動脈硬化の程度を把握する(0.91~1.29が広い意味で正常。0.91~0.99 は境界線、0.71~0.90が軽度、0.41~0.7 が中等度、0.4以下が重度)。

閉塞性動脈硬化症(ASO) は下肢の慢性虚血による間欠性跛行が特徴的症状であり、虚血が進行すると壊死に至る。

本症例は間欠性跛行は認めるが安静時には疼痛を認めていないため1度相当であり,理学療法としても運動療法が推奨されている.

閉塞性動脈硬化症 (arteriosclerosis obliterans ASO) ,腹部大動脈とその主要分枝や四肢の主要動脈が動脈硬化のために狭窄、閉塞し、四肢に優性循環障害をきたす疾患である。
1. ASO は、末梢動脈疾患の90%以上を占める。
3. ASO は、下肢の大腿動脈、膝窩動脈、腸骨動脈、腹部大動脈の順に好発する。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200217164741j:image
4. ASOは中高年に多い。一方、閉塞性血栓血管炎(Buerger病)は、若年男性の細い動脈に好発する。

Buergerテスト、下肢の循環障害で陽性
5. ASOの増悪因子には、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や喫煙がある。

1. 治療期間は3~6か月間が一般的である。

閉塞性動脈硬化症に対する理学療法は「心血管疾惠におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)」やTASCⅡで推奨される運動処方を参考に進める場合が多い。いずれもトレッドミルレーニングが推奨されているが、設置されていない施設では平地歩行にて実施する。

1. 効果判定には

①下肢に痛みが出現する歩行(跛行出現距離)、

②これ以上歩けないという距離(最大歩行距離)、

③立ち止まってから症状が消失するまでの時間(症状改善時間)を用いる。

運動療法による間欠性跛行改善のメカニズムは、血管内皮機能の向上による血管拡張反応の改善や骨格筋における酸素利用能の改善などである。

1. 監視型のトレーニングは,非監視型と比較し,より早く歩行速度を改善し長距離歩行が可能になるなどの治療効果がある。また,トレッドミル歩行は疼痛が出現するまで負荷をかけるため,監視型で実施する.

1. 寒冷療法❌は適応にならない。一般的には温熱効果を期待して炭酸泉足浴療法などの温熱療法が適応となるが,循環障害部位では知覚鈍麻や低温火傷,局所酸素需要量の過度な充進も考慮し慎重に対応を行う必要がある.

1. 弾性ストッキングなどを用いた持続的な圧迫ではなく,間欠的圧迫療法が適応となる

1. 転倒リスクがあるため,階段❌はあまり使用しないことが望ましい

1、2. 下肢痛が出現した時点で運動を中止すると、最適なトレーニング効果が得られないため、下肢痛を生じるに十分な強度で、歩行による下肢痛が中等度になったら運動を中断断する。その後、疼痛が軽快するまで安静にする。下肢痛が軽快したら歩行を再開する。運動-安静-運動…を繰り返す
1. 運動-安静の繰り返しを少なくとも初回に35 分間行い、徐々に運動時間を増加させ50分間まで延長する。

①石川 朗(編) : 15 レクチャーシリーズ理学療法テキスト 内部障害理学療法学 循環, 代謝, pp131-140, 中山書店, 2010. ②山﨑裕司, 他(編) : シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト 第2版. pp103-117, 南江堂,
2008. ③丸山仁司, 他(編) : 内部障害編 評価から治療手技の選択, pp231-241, 文光堂, 2008.
①上月正博 : よくわかる内部障書の運動療法, 第1版, 医歯藥出版, p. 91-93. ②松尾善美(編) :  PT. OTビジュアルテキスト内部障害理学療法学, 第1版, 羊土社, p. 181-182. ③日本循環器学会, 他(編) : 末消開塞性動脈疾患の治療ガイドラインp.1527-1528. ①細田多穗(監修), 山崎裕司, 他(編) : シンプル理学療法学シリーズ内部障害理学療法学テキスト, 改訂第2版, 南江堂, p. 103-117. ②奈良 勲 (シリーズ監修), 前田眞治, 他(編) : 標準理学療法作業療法学 基礎専門分野, 内科学, 第3版, 医学書院, p.94 95. ①奈良勲, 他(シリーズ監修), 前田員治, 他 : 標準理学療法学, 作業療法学專門基礎分野, 内科学, 第3版, 医学書院, p.94-95. ②奈良 勲 他 (シリーズ監修), 横井豊治, 他(編) : 標準理学療法学, 作業療法学 專門基礎分野, 病理学, 第4版, 医学書院, p. 130-131. 

 

長期臥床の弊害は全身諸器官に及ぶ

1. 心肺機能や循環調節などに影響が及ぶ結果,静脈還流量を低下させ、起立性低血圧を引き起こす。

1. 安静臥位により1回拍出量が低下するため、安静時心拍数は増加する。

2. 廃用症候群により、呼吸器系では、肺活量最大換気量換気血流比などが低下する。

4:長期臥床により横隔膜の下降が制限され,肋間筋の可動域も制限される.そのため,1回換気量,肺活量,機能的残気量は低下する.

2, 5:1回換気量の低下に伴い呼吸回数は増加し,上胸部優位の浅く早い呼吸パターンとなり,下葉は局所低換気状態になって肺胞が虚脱しやすくなる.

また、呼吸筋の筋力低下で喀痰排出が困難になり,分泌物の蓄積なども起こりやすく,末梢気道閉塞から肺胞は虚脱しやすい状態となる。

1. 換気量の減少,肺胞虚脱などから肺胞換気の低下,換気血流の不均衡などを引き起こし,低酸素血症をきたす。

4. 廃用症候群により、筋骨格系では、筋力や筋耐久性の低下がみられる。

臥床により筋の不使用があると, 筋線維数の減少に伴い萎縮が起こるため, 最大筋腹は細くなる上肢筋力や手内筋は,臥床時であっても日常生活の中での使用頻度が保たれやすいため著明な筋萎縮が起こりにくく、下肢の筋力低下の方が大きく影響する。下肢筋は、安静時で、約 20%の筋力低下がみられる。臥床生活では筋収縮による刺激が減少するため、筋細胞膜のアセチルコリン感受性の増強はない。

1. 関節では変形,拘縮,

1. 血管では血漿量の低下

1. 中枢神経では痛みに対する閾値低下などが生じる。

5. 廃用症候群により、消化器系では、食欲の低下がみられる。

3. 不動による交感神経系の充進の結果、胃腸管運動は低下する。

3. また,食後も安静状態にしているとブドウ糖の処理能力が低下し,急激な血糖值上昇を引き起こす原因にもなる、

1. 外界からの隔離状態は自然界に存在する各種のウイルスや細菌等に曝露される機会も少なく,結果的に免疫能は低下する,

1. さらに,クレアチニン,クリアランスは,体内熱源として消費された蛋白の老廃物を腎臓の糸球体が濾過する能力の指標であるが,加齢や長期臥床では濾過能力は低下し、カルシウムが尿中に放出されることにつながる。

血中カルシウム濃度は一時的に上昇する

①中村降一(監修) : 入門リハビリテーション医学第3版, pp43-44, 医歯薬出版, 2007. ②奈良 熱(編) : 理学療法から診る廃用症候群 基礎, 予防 介入, p15, 文光堂,2014. ①上田 敏(監修), 伊藤利之, 他(編) : 標準リハビリテーション医学, 第3版, 医学書院, p. 102-109. 改訂第2版, 南江堂, p.50. 

 

体位変化は、褥瘡の予防、誤嚥性肺炎の予防、気道内分泌物の移動促進、換気血流比不均等の改善、下側肺障害(荷重側肺障害)の予防、無気肺の予防などの効果がある。

体位が呼吸器系に及ぼす影響は大きく、背臥位からのべッドアップで

全肺気量、1回換気量、肺活量、機能的残気量、1秒量などの増加を認める。

予防的に行う体位変換は、著しい循環動態の変化を認める症例などを除いて特に制限はない

臥位では重力の観点から循環動態が明らかに違い, 影響が少ないのは臥位である.

そのため、側臥位、可能であれば半座位や座位を組合せて行い、早期離床を目指す。

1. 気道抵抗は減少する。
2. 胸郭前後径は増加する。
3. 予備呼気量(ERV) は増加する。
4. 機能的残気量(FRC) は増加する。
5. 肺コンプライアンスは増加する。

その他に背臥位から座位への体位変化が呼吸器系に及ぼす急性効果は以下に示す通りである。

.全肺気量 (TLC) ↑
.1回換気量 (VT) ↑
.肺活量(VC)↑
.残気量 (RV) ↑
.努力性呼気量 (FEV) ↑
.努力性呼気流速 (FEF) ↑
.気道閉塞↓
.動脈血酸素分圧(PaO2) ↑
.胸部腹部の左右径↓
.呼吸仕事量↓
.横隔膜運動↑
.分泌物の移動↑

①石川 朗, 他 : 15 レクチャーシリーズ理学療法テキスト 内部障害理学療法学 呼吸, 第2版, 中山書店, p.130. ②玉木 彰 : DVDで学ぶ呼吸理学療法テクニック 呼吸と手技のタイミングがわかる動画91, 南江堂, p. 71. ③高橋仁美, 他 : 動画でわかる呼吸リハビリテーション, 第2版, 中山書店, p. 147-148.