慢性疼痛

 

CRPS (complex regional pain syndrome:
複合性局所疼痛症候群)とは、 神経や骨軟部組織の損傷後に引き起こされる

①感覚神経

②運動神経

③自律神経

④免疫系の病的変化

によって発症する慢性疼痛症候群である。

2:反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy : RSD)と呼ばれていた明らかな神経損傷を伴わないものCRPSタイプI、伴うものをCRPS タイプⅡと定義する。

3:肩手症候群は、主として脳卒中後などに起こる上肢のRSD(CRPS タイプI)であり、手指の症状に加え肩関節痛を伴う。
memoタイプIの誘因で一般的なのは外傷(骨折、脱臼、打撲、捻挫、 挫創)で、心筋梗塞や脳血管障害にもみられる。

memoタイプⅡは外傷、 帯状疱疹、 医原性要因などによる神経損傷を伴うものとして分類される。

1. 帯状疱疹帯状疱疹ウイルスによる感染症である。

4:帯状庖疹後神経痛は神経障害性の慢性疼痛(CRPSタイプⅡ)で、単に痛覚過敏だけでなく、 ロディニア(allodynia)を伴う
memoタイプⅡでは神経損傷に伴った強い感覚低下があり、その領域を中心に神経支配領域を越えて広い範囲に持続性の灼熱痛やアロディニアを生じる。

5:疼痛のために活動制限がみられる例、特にロディニアをもつ例には、行動療法として認知行動療法を基礎にアプローチする。
memo患者自身が痛みに適切に対処し、できるだけ痛みにとらわれない方法を身につけることを目標とする。

CRPS (複合性局所疼痛症候群: complexregional painsyndrome)は、外傷などをきっかけとして、その原疾患に見合わない多彩な症状(持続する疼痛、浮腫、発汗異常など)を呈する慢性疼痛症候群である。一般的にはCRPS は難治性,進行性の疾患であるが、早期治療による予後良好例もみられる

1. 男性よりも女性にみられやすいとされる

1. 関節可動域制限は判定指標の項目に該当する。

2. 筋力低下は判定指標の項目に含まれない。

3. 運動麻痺は判定指標の項目に含まれない。

4. 感覚鈍麻ではなく、アロディニア (触刺激,熱刺激が疼痛を誘発する状態)」や「知覚過敏」が判定指標の項目となっている。

5. 発汗異常などの症状がみられるが、血流低下は判定指標の項目には含まれない。

厚生労働省CRPS 研究班から提唱された本邦版CRPS判定指標】
病期のいずれかの時期に、以下の自覚症状のう2頂目以上該すること。
ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。

・皮膚,爪 毛のうちいずれかに萎縮性変化
関節可動域制限
・持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
・発汗の亢進ないしは低下
・浮腫

①住昌彦,他:本邦におけるCRPSの判定指標、日本臨床麻醉学会誌、 2010、30: 420-429


2. 臨床経過は3期に分けられ

第1期を急性期(3~6か月継続)、

第2期を亜急性期(3~6か月継続)、

第3期を慢性期とする。

疼痛や腫脹、熱感などは急性期で著しいが、亜急性期に入るとそれらは落ちついて、代わりに手の皮膚や筋の萎縮が目立つようになる。慢性期とされる第3期では、 手の皮膚· 筋の萎縮が著明となり手指は完全な拘縮となる。エックス線上、 広範な骨粗鬆症を示す。

肩手症候群とは、肩と手の疼痛性運動制限と腫脹,疼痛を主徴とする、反射性交感神経性ジストロフィー (Reflex Sympathetic Dystrophy RSD) の一種で複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome CRPS) type Iに分類される。
1. 脳卒中発症後2~5か月の慢性期に生じることが多い。

1. 手部の腫脹が特徴的である。

1:手指はしばしばソーセージ様に腫脹し、光沢を帯び、次第に拘縮する。
4. 主な症状は腫脹、色素異常熱感であり、冷感は生じない。

4. 発汗は初期に亢進し、手掌で観察されるが、慢性期になると低下する傾向にある

5. 病態は交感神経の過活動が原因である。

5. 交感神経の異常興奮により血管が収縮することから、早期から浮腫が出現する.

6. 長期化すると,爪や皮膚に萎縮性変化が出現し,手掌の大きさが健手と比べて小さくなる

3:麻痺の重度な肩関節亜脱臼例に多いが、上肢機能が比較的よい患者にみられることもめずらしくなく、麻痺が軽くても過度の関節可動域運動などで誘発されることもあるので、注意を要する。

3:亜脱臼を伴っているため,アームスリングを着用し, 回旋筋腱板ならびに関節包の異常な伸展を防ぎ,歩行時に上肢が邪魔にならないようにする.(オモニューレクサプラス)

3:痛みによって緊張が高まっている筋を対象としたストレッチは、局所の循環障害の改善
有効である。

1:寒冷療法は局所の疼痛の軽減を目的として行う。

2:温熱療法により代謝産物の排出が促進され、筋緊張の軽減が図られる.

5:治療として星状神経節ブロックや、ホットパックなどの温熱療法、経皮的電気刺激などが行われる。
4. 疼痛のために十分に行えない場合もあるが、温熱療法を併用しながら可能な範囲で可動域を維持する訓練を行うべきである。ただし、 肩手症候群の誘因に日常生活での軟部組織損傷が想定されているので、 あくまでも注意深く行う必要がある。

4:関節可動域運動は疼痛の生じない範囲で、可動範囲の半分程度にとどめ、愛護的に行う。

4:他動による関節可動域運動時は, アライメントを整えて、痛みのない範囲で行う.肩関節周囲筋はすべて発痛起因組織になる可能性があるので, 筋の伸張は決して性急に行ってはいけない.

5:自動介助による肩関節可動域運動は,肩関節外旋位とし,インビンジメントを防止しながら,痛みのない範囲で行う.

2. 積極的な関節可動域練習は疼痛の増悪に繋がる恐れがあり、薬物療法の併用愛護的な関節可動域練習が望まれる
3. ステロイド注射やコルチコステロイドの低用量経口投与、神経ブロックが推奨されている。トリガーポイントのブロック、所属高位の交感神経ブロックが行われる。

3. 肩手症候群への治療は副腎皮質ホルモンであるコルチコステロイドの投与が勧められている。 基本的には2~3週間の連続投与で疼痛を観ながら漸減するが、疼痛が再燃する場合には低用量のプレドニンを長めに投与することもある。

 

慢性疼痛に対するこれまでの治療介入は、急性·慢性問わず擦痛の「感覚」 そのものだけを単軸的にとらえ、訴えている末梢症状とその原因探しに焦点を絞った「生物医学的モデル」に基づくアプローチであった。しかし急性疼痛と慢性疼痛は根本的に異なる病態であるため、組織損傷に起因する急性疼痛(生理
的な痛み)には奏効しやすいが、偏った認知·情動処理によって痛みが修飾された慢性疼痛(病的な痛み)に対しては最良とはいえない。
そのため慢性疼痛には患者の情動や認知的側面を含めた「生物心理社会学的モデル」に基づく 包括的アプローチが推奨されている。
1:疼痛行動とは、痛みを訴える、 すぐ横になりたがる、仕事を休むなどの、慢性疼痛患者のADL. QOLを低下させる随意的行動(不適応行動) である。したがって理学療法では、この疼痛行動への注目·関心を漸減させ、適応行動への注目·関心を漸増させることを目指す。

2:疼痛に関連するネガティブな情動 (抑うつや不安)を直接改善させるのは難しい。 そのため、 否定的な考え方·思考(認知)、および不活動(行動)を変化させ、間接的に疼痛の悪循環を是正する認知行動療法は有効とされる。

4:疼痛に対する理学療法では、教育的アプローチや認知行動療法の手法を取り入れた運動
療法が重要となる。つまり、“身体を鍛える”というよりは、むしろ痛みのとらえ方を是正しつつ(認知の修正)不活動への悪循環に陥りやすいサイクルを断って身体活動量を上げることを目的としている。

5:患者の注意が“痛み”にとらわれると、その恐怖心や不安から行動を過剰に控えたり、 心理社会的機能にも悪影響を及ぼすため、運動プログラムは課題そのものに集中できる(疼痛への意識から離れられる)ものを設定する。

 

CRPS (複合性局所疼痛症候群)は,外傷や神経損傷後に疼痛が遅い延する症候群である、そのうち、神経障害のないタイプに、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)が含まれるが,

この呼称は,整形外科領域では,Sudeck骨萎縮,リハビリテーション領域では、肩手症候群と呼称され、臨床領域によって呼称と定義が異なっている。
①石川斉·他(編集主幹):図解理学療法技術ガイドー理学療法臨床の場で必ず役立つ実践のすべて,第4版、文光堂。2014,pp 416-422.②柳健(編):運動療法学,第2版、金原出版,2011, pp 106-112. ③市橋則明(編) : 運動療法学一障害
別アプローチの理論と実際,第2版,文光堂, 2014, pp 35-42, pp 386-398. ④内山靖·他(編):図解 運動療法ガイド,文光堂, 2017, pp 400-410. (⑤伊稼雅臣·他(編) :慢性婆痛の認知行動療法一“消えない痛み”へのアプローチ、日本医事新報社、2016, pp 16-40, pp 122-127,

①江藤文夫·他(監) :最新リハビリテーション医学第3版、医歯薬出版、 2016,pp 393-399.②上田敏 (監) : 標準リハビリテーション医学, 第3版, 医学書院, 2012, pp 92-93.p310.③千野直一 (監) : 現代リハビリテーション医学、 改訂第4版,金原出版,2017, pp 374-376.

福井圏彦 他(編):脳卒中最前線 急性期の診断からリハビリテーションまで、 第4版、 医歯薬出版、p. 403-405. 水尻強志 他 (編): 脳卒中リハビリテーション 早期リハからケアマネジメントまで、 第3版、 医歯薬出版、p.267-271

①日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員
会:脳卒中治療ガイドライン2015 (追捕2017)、協和企画、p.303-304. ②福井圆彦,他:脳卒中最前線、第3版、医歯薬出版、p.359-361

①江藤文夫,他(監):最新リハビリテーション医学.第3版,医歯菜出版,2016,pp 393-399.②上田敏(監):標準リハビリテーション医学,第3版,医学書院,2012,pp 92-93, p310.③T千野直一 (監) :現代リハビリテーション医学,改訂第4版,金原出版,2017,pp 374-375.

①福井圈彦,他:脳卒中最前線 第4版,pp397-405,
医歯薬出版,2009.