肩の外側の痛みと腋窩神経の圧迫!QLSの評価とリハビリテーション  


肩の外側の痛みと腋窩神経の圧迫!QLSの評価とリハビリテーション

肩関節の構成は複雑です。肩の外側の痛みを感じる場合、腋窩神経による圧迫を原因の一つとして考える必要があります。今回、肩の外側の痛みと腋窩神経の圧迫の確認に対する評価とリハビリテーションについてまとめていきたいと思います。

 

 

目次 [非表示]

1 肩の外側の痛みと腋窩神経の圧迫!QLSの評価とリハビリテーション1.1 肩関節の解剖運動学的評価やリハビリテーションを行うためのオススメ書籍
1.2 肩関節に関するオススメ記事
1.3 腋窩神経が圧迫されるとどのような症状が出現するのか
1.4 痛みの原因が筋なのか、関節包なのか
1.5 QLSが狭くなるのはなぜか
1.6 言葉の確認!筋スパズム(筋攣縮)と伸張性低下(筋短縮)1.6.1 筋攣縮
1.6.2 筋短縮
1.7 肩外側の痛みがQLSによるものか確認する評価1.7.1 圧痛の確認
1.7.2 筋緊張の確認
1.7.3 伸張性の評価(どの肢位で各筋は一番伸びるのか)1.7.3.1 小円筋
1.7.3.2 大円筋
1.7.3.3 上腕三頭筋長頭
1.8 QLSに対するリハビリテーション1.8.1 圧痛がある時、ない時ではアプローチの順序が異なる。
1.8.2 ストレッチの例1.8.2.1 小円筋
1.8.2.2 大円筋
1.8.2.3 上腕三頭筋長頭

肩の外側の痛みと腋窩神経の圧迫!QLSの評価とリハビリテーション

 
腋窩神経が圧迫されるとどのような症状が出現するのか
腋窩神経は腕神経叢から出る上腕部に走行する末梢神経です。

腕神経叢とは、第5〜第8頸神経(C5〜C8)と第1胸神経の前肢で構成される、神経が網目状に集合した部分です。

腕神経叢の圧迫や牽引刺激により、腕や手指にしびれ感や重だるさ、痛みを引き起こすような神経症状が現れます。

腕神経叢は斜角間隙と呼ばれる、前斜角筋と中斜角筋の間を通り、各神経幹(上(C5、C6)、中(C7)、下(C8))を形成します。

神経管はさらに鎖骨の後ろでそれぞれ前枝、後枝に分かれ、そこから合流し3本の神経束を形成、腋窩動脈を囲うようになっています。

上、中神経幹の前部は外側神経束(C5〜C7)、下神経幹の前部は内側神経束(C8、T1)、全ての神経幹の後部は後神経束(C5〜C8、T1)を形成します。

外側神経束と内側神経束は合流して正中神経になり、外側神経束の1枝は筋皮神経となり、内側神経束の1枝は尺骨神経になります。

後神経束は腋窩神経と橈骨神経となります。また、腕神経叢からは肩甲上神経、肩甲下神経も分枝しています。

腋窩神経が絞扼されると、上腕外側の領域に知覚障害や放散痛が生じることがあります。

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痛みの原因が筋なのか、関節包なのか
痛みの原因が筋肉なのか、関節包なのかを知るのには、以下の情報が役立ちます。

筋肉が引き伸ばされた時に生じる伸張痛や、筋攣縮(筋スパズム)の状態にある時には、筋肉の部位を指し示します。

一方、関節包が原因の痛みであれば、支配神経の知覚領域の痛みを訴えることがあります。

関節包は、部位によって支配される神経が異なります。
関節包前方:肩甲下神経
関節包後下方:腋窩神経
関節包上後方:肩甲上神経

例えば肩関節を挙上すると、下方関節包が伸張されます。上記に従えば、下方関節包は腋窩神経支配ですから、腋窩神経の支配領域(知覚領域)の痛みが出現します。

腋窩神経の主な神経支配筋は三角筋ですから、三角筋周辺の痛みを訴えることになります。

関節包の伸張肢位と各神経の支配筋は以下のようになります。

運動方向                               伸張部位
伸展                                       前方(やや上方)
伸展+内転                      前上方(上方が強く)
水平外転(内外旋中間位)前方(やや下方)
浅い屈曲+内転              後上方
90°屈曲+内転                後方
深い屈曲+内転              後下方
下垂外旋                          前上方(前方が強く)
90°外転+外旋                前下方
90°外転+内旋                後方
90°屈曲+内旋                後方
 

神経                             筋
腋窩神経                     三角筋(小円筋)
肩甲上神経                 棘上筋、棘下筋
肩甲下神経                 肩甲下筋、大円筋


QLSという、小円筋、大円筋、上腕三頭筋長頭、上腕骨で構成されるスペースでは、高緊張などによるスペースの狭小化により腋窩神経領域の痛み(三角筋)が出現します。

 

 
QLSが狭くなるのはなぜか
QLSは小円筋、大円筋、上腕三頭筋長頭、上腕骨で構成されるスペースは、高緊張によりスペースが狭くなります。

高緊張になる原因としては、

・肩関節外旋筋の筋スパズム、伸張性低下
・肩関節伸展筋の筋スパズム、伸張性低下
・肩甲骨周囲筋の筋力低下による

    肩関節外旋・伸展筋の過負荷、それによる      筋スパズム、伸張性低下
・疼痛による筋の防御性収縮

などが考えられます。

肩関節周囲炎の方でよく観察されるのが、防御性収縮による筋スパズムになります。

 
言葉の確認!筋スパズム(筋攣縮)と伸張性低下(筋短縮)
ここで、筋スパズムと伸張性低下(筋短縮)について考えていきます。

筋攣縮
筋攣縮とは筋肉が痙攣した状態のことをいい、また血管のスパズムも伴っている状態です。

これらが起こるメカニズムとしては、関節周囲の組織が刺激を受けると侵害受容器が興奮し、その信号が脊髄内に入ります。

その後、脳に伝達される経路では脊髄後角でシナプスを介し外側脊髄視床路→視床→大脳体性感覚野に投射され痛みが認知されます。

脊髄反射を介して抹消へと伝達される経路(脊髄反射の形成)では、脊髄痛覚ニューロン→交感神経節前ニューロン→交感神経節→交感神経節後ニューロン→血管の攣縮を引き起こします。

また脊髄痛覚ニューロン→交感神経節前ニューロン→筋攣縮を引き起こします。

筋、血管の攣縮が長期に及ぶと、局所的な循環を停滞させることとなります。筋細胞は虚血に伴い組織変性が起こり、その過程でおこる発痛関連物質が感作することで疼痛や運動制限を生じさせます。

 
筋短縮
筋短縮は、筋の伸張性が低下している状態のことをいいます。これは、筋実質の伸展性低下、筋膜の繊維化によって引き起こされます。

筋実質の伸展性低下:
筋繊維を構成する筋節の減少で生じます。

筋肉は、筋を伸張する方向上に連なる筋節の数が多いと、筋繊維の伸張性は大きくなります。

それは、筋肉を伸ばすと筋原繊維レベルで太いフィラメントに対して隣り合う細いフィラメントが引き伸ばされ、筋節間が伸張するためです。

よって、筋実質の伸展性の低下は筋節数が減少し、伸展に対する抵抗が増している状態といえます。

筋膜の繊維化:
関節の不動や運動不足により生じます。筋膜、筋内膜のコラーゲン分子に架橋結合というものが形成されることで、組織の硬度が高くなっている状態です。

正常なコラーゲン分子を引き離すと、扁平化することで全体的に伸展されます。

しかし、架橋結合があると、伸張に対する抵抗性が増しているため、そのコラーゲン分子を引き離しても十分に伸展できません。

 

 
肩外側の痛みがQLSによるものか確認する評価
先ほど、腋窩神経による痛み(三角筋)は、小円筋、大円筋、上腕三頭筋長頭、上腕骨で構成されるスペースが、高緊張などに狭くなることが原因だと述べました。

そのため、これらの筋肉の高緊張による伸張性の低下が、肩関節の可動域制限としてどの程度現れているかを評価すれば、おおよその原因筋を突き止めることができるということになります。

圧痛の確認
まずは、小円筋、大円筋、上腕三頭筋の圧痛を確認します。

攣縮した筋肉の場合、筋細胞外に発痛関連物質が出され、高閾値機械受容器やポリモーダル受容器の閾値が低下し、圧痛に対して侵害刺激として受容され、圧痛を認めることが多くなります。

短縮した筋肉の場合、組織変性が進み筋肉が伸びにくくなっているが、組織としては安定した状態を保てているため、圧迫に対する閾値が高く圧痛を認めにくくなっています。

 

 
筋緊張の確認
同じく小円筋、大円筋、上腕三頭筋の筋緊張を確認します。

攣縮した筋肉の場合、脊髄反射で持続的な筋肉の痙攣が起こっている状態であり、どの関節肢位にも関わらず、筋緊張は高くなっています。

そのため、筋肉を短縮位でも緊張は高く、伸張位とするとさらに緊張が高くなり痛みが発生しやすくなります。

短縮した筋肉の場合、筋肉の伸張性が失われている状態であるため、伸張位になると筋緊張は高くなります。

逆に短縮位となると筋肉は弛緩し、筋緊張は低くなります。

伸張性の評価(どの肢位で各筋は一番伸びるのか)
伸張性を評価するのには、各筋がどの肢位をとると一番筋が伸びるのかを把握することが重要です。

小円筋
肩関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節内旋

大円筋
関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節外旋

上腕三頭筋長頭
肩関節屈伸0°から、肘関節屈曲(全可動域)、肩甲骨固定で肩関節屈曲

 

 

 
QLSに対するリハビリテーション

 
圧痛がある時、ない時ではアプローチの順序が異なる。
今までの話から、圧痛がある状態というのは、筋攣縮がある可能性が高いということがわかります。

筋攣縮がある状態でストレッチを行うとどうなるでしょう。

筋攣縮では筋肉は常に(筋肉が縮む、伸びる位置どちらでも)緊張しているわけですから、伸張性を出そうといきなりストレッチを行うと痛みが生じやすくなってしまいます。

ストレッチで痛みを生じさせてしまうと、その痛みがさらに攣縮を引き起こしてしまいます。

これでは悪循環になりますから、まずは筋攣縮をとることがアプローチの順序としては最初に行うことが大切です。

筋攣縮をとるには、筋肉の収縮-伸張位を弱い力(自動運動)で繰り返すことが有効だとされています。

これは、自動運動で筋肉を収縮させることにより血管を圧迫し、弛緩させることにより血管を拡張させます。

これにより血液の流れが改善され、発痛物質を除去排出させることができると考えられているためです。

圧痛がなかったとしても、筋緊張が高い筋肉に対しては最初にリラクゼーションをかけることが重要ではないかと考えます。

新品の粘土を想像してください。最初は中々伸びにくいですよね。

粘土をこねていく中で、徐々に柔らかさも出てくるものです。

筋肉の緊張が高い状態では、ストレッチの肢位にもっていってもなかなか伸張性が得られません。

はじめに筋肉を少しでもリラックスさせてあげることで、ストレッチの効果が高まるといえます。

 

ストレッチの例
ストレッチでは、各筋が一番収縮する位置から、一番伸張する位置まで動かすことが重要になります。

また、その際各筋に指で押圧をかける(フックをかける)ことで、より筋肉がストレッチされやすくすることが可能です。

この方法では、拘縮がある場合にも有効になります。

小円筋
開始肢位:肩関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節外旋
ストレッチ肢位:肩関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節内旋

大円筋
開始肢位:関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節内旋
ストレッチ肢位:関節90°屈曲位(3rdポジション)、肩甲骨固定で肩関節外旋

上腕三頭筋長頭
開始肢位:肩関節伸展、肘関節伸展位
ストレッチ肢位:肘関節屈曲(全可動域)、肩甲骨固定で肩関節屈曲