バイオメカニクスを応用!姿勢から考える「関節機能」の推論と病態の評価方法
今回は、「姿勢評価から関節機能を考える」をテーマにお伝えしていきます。
みなさんは、普段どのような姿勢分析を行っていますか?
いわゆる、トップダウンで評価をしていく際、姿勢から機能障害などを予測していく方は多いと思います。
その際、バイオメカニクスや運動連鎖などの観点から紐解くことで、
筋骨格系にかかっている負担を推察することができます。
今回は、バイオメカニクスを中心に分析していく方法をお伝えしていきます。
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バイオメカニクスを臨床応用するための基礎
【バイオメカニクス(生体力学)】
= 生物の構造や運動を力学的に探求したり、その結果を応用することを目的とした学問
とされていますが、やっぱり定義は分かりにくい。
これでは臨床へ落とし込むには、少し困りますね。
バイオメカニクスを臨床応用するためのポイントとして理解しておきたいことは、
① 身体重心(COG)
② 床反力(COP)
③ 関節モーメント
これら3つの関係性を考えることから始まります。
ポイント①:身体重心(COG:center of gravity)
身体重心とは、「身体中心にかかる重力加速度」を表します。
身体重心位置を規定する要因として、以下のものが挙げられています。
1) 身体があらゆる方向に自由に回転しうる点
2) 身体各部の重量が相互に平衡である点
3) 基本矢状面・前額面・水平面の3つの面が交差する点
身体重心の位置は、おおよそ「仙骨の前方」に位置しているとされていますが、性別・年齢によって差がみられます。
【性別による違い(足底からの高さ)】
● 男性:身長の約56% ● 女性:身長の約55%
【年齢による違い】
● 成人:約55~56% ● 小児:約56~57%
また、上半身・下半身など、各部位にも質量中心点が存在しているため、
身体重心位置は、それらの総和によって決定されます。
ポイント②:床反力(COP:center of pressure)
正しくは、床反力作用点のことをCOPと呼びますが、今回は床反力のことをCOPと呼びます。
床反力とは、ニュートンの第3法則である「作用・反作用の法則」によって、
接触面から身体重心へ向かう反作用力のことをいいます。
この力が重体重心へのかかる力と釣り合うことで、安定が保たれています。
この関係性がくずれた際、関節へ回転力(モーメント)が発生し、
運動が行われるとされています。
ポイント③:関節モーメント
「関節に加わる回転力」のことを、関節モーメントと呼びます。
各関節は、「滑り運動」と「回転運動」が組み合わさることで、運動が発生します。
その運動を起こす力の「種類」と「方向」によって、意味合いが変化してきます。
【関節モーメントの種類】
● 外部モーメント:外力(重力・床反力など)によって形成される力● 内部モーメント:筋・腱の張力によって形成される力
【関節モーメントの方向(例:膝関節)】
● 屈曲モーメント:膝関節中心よりも後方で形成された力● 伸展モーメント:膝関節中心よりも前方で形成された力
たとえば、重力によって、膝関節中心の後方に加わった力は、
「外部膝関節屈曲モーメント」と呼びます。
また、大腿四頭筋の張力によって、膝関節中心の前方に加わった力は、
「内部膝関節伸展モーメント」と呼びます。
この姿勢では、膝関節屈曲位によって、質量中心が膝関節の後方に位置して結果、
力学的な法則に従って、外部膝関節屈曲モーメントが発生します。
ここで重要なのが、
立位姿勢を保持するために、大腿四頭筋による内部膝関節伸展モーメントが、
「無意識的」かつ「反射的」に、発生するということです。
つまり、各関節のアライメント評価をすれば、
関節モーメントによって、筋の緊張状態・負担を分析することが可能になるのです。
筋の状態から何を考える?
筋の緊張状態を知ることで、以下の状態を知る手がかりとなります。
● 過緊張筋と弱化筋(相反神経抑制による反応)
● 短縮筋(筋の長さが短い)
● 関節運動の制限因子(筋性)
● 筋性疼痛(代謝障害による影響)
● 関節運動パターンの優位性
過緊張と弱化筋
内部関節モーメントが発生している筋は、「過緊張」となります。
加えて、相反神経抑制によって、拮抗筋は「弱化筋」となります。
【相反神経抑制(Ⅰa抑制)】
= 主動作筋の収縮刺激に伴って、拮抗筋の緊張を抑制する反射機構
変形性膝関節症の方々に多い「膝関節屈曲拘縮」では、
大腿四頭筋の過緊張、ハムストリングスの弱化が生じやすいことなります。
そのような姿勢を有している方への、評価手順として以下を行っています。
短縮筋
関節運動に伴って、筋の長さは変化をします。
【膝関節‐屈曲位】
● 大腿四頭筋 ⇒ 伸張位
● ハムストリングス ⇒ 短縮位
筋は適切な長さを保つことで、十分な効果を発揮します。
筋伸縮距離(筋収縮距離 + 筋伸張距離)に異常が起きると、関節運動が障害されます。
関節運動の制限因子
過緊張となっている筋は、「伸張反射(伸張刺激に対して反射的に収縮する機構)」が生じやすいとされています。
そのため、関節運動を行う際、筋性の抵抗感へと変化してしまい、制限因子となる可能性があります。
筋性疼痛
筋が弛緩するためには、運動神経線維からのアセチルコリンの放出が停止し、
Caイオンが筋小胞体へ取り込まれることで、クロスブリッジが解除されなくてななりません。
この「Caイオンの取り込み障害」によって、筋が持続的に収縮した状態になってしまいます。
さらに、筋線維内の「ATP枯渇」でクロスブリッジの解除が困難となり、収縮した状態が持続します。
筋の持続的な収縮によって「血液循環に影響」を及ぼし、「プロスタグランジン」などの疼痛に関与する物質が産生されます。
その結果、筋性疼痛へとつながっていきます。
関節運動パターンの優位性
過緊張となった筋は、シナプスの発火頻度が増加します。
そのため、刺激への感受性が高まり、関節運動時に動員されやすくなります。
結果、過緊張筋を優位に使用した関節運動パターンへと変化していきます。
まとめ
① 姿勢観察によって、骨の「配列」・「位置関係」を理解する
② 各関節に対する「重心位置」を考え、「外部関節モーメント」を考える
③ 外部関節モーメントに拮抗する、「内部関節モーメント」を予測して
「筋の状態」を知る
おわりに
いかがでしたか?
姿勢観察をしっかりと行い、「バイオメカニクス」と「筋の生理学」などの視点から分析することで、
トップダウンでの介入きっかけになると思います。