レントゲンから見る脱臼のリスク 1

脱臼しやすいカップ設置について


前回は脱臼に関して説明しました。

今回は脱臼しやすい人としにくい人について説明します。

 

脱臼のし易さは何が影響しているのでしょうか?またその基準がレントゲンで判断できればリハビリ業務や臨床診断に役に立つと思いませんか?

 

脱臼の危険性がレントゲンで分かる?
まずは以下に脱臼に影響する主な因子を4つあげました。

  1. カップの設置位置(THA)
  2. インナーヘッドの大きさ(THA)
  3. 関節包のテンション
  4. 術式

これらが脱臼のし易さに影響します。

 

上の3つは実はレントゲンで簡単に確認できます。関節包のテンションもレントゲンから予想できるんですよ。

 

今回はまず1.カップ設置位置について説明します。

 

CUP外転角ってなに?
THAカップは臼蓋骨に固定されます。そのため当たり前ですが一度設置したら基本的に位置を替える事はできません。カップの脱臼しやすい設置位置というものがあるので、それを把握しましょう。

そのためにはまず「CUP外転角」というものを理解しましょう。

「CUP外転角」とは、レントゲンで確認できます。前額面における両側の涙痕を結んだ直線を基準線、つまり0°とした線に対するカップの傾斜角度のことです。

文章で説明すると分かりにくいですので図で説明します。

 

この図では右股関節は40°(図の右)、左股関節は60°(図の右)

つまりカップが起きていれば起きているほどCUP外転角は大きいということになります。在り得ませんが、例えばCUP外転角が90°ならばTHAカップは真横を向いているような状態ですね。

ではこのレントゲンを見てみましょう。

 

両側の涙痕を結んだ直線は予め赤い点線で引いておきました。パッとみてCUP外転角はわかりましたか?

下に解説の図を載せておきます。

 

正確に計測したら43.5°でした

この場合CUP外転角は約45°です。

このようにしてCUP外転角は計測できます。まずはCUP外転角の測り方はご理解頂いたと思います。

 

脱臼とCUP外転角の関係は?
では具体的にCUP外転角は脱臼にどのように関係しているのでしょうか?

実はCUP外転角には設置基準となる角度があります。

CUP外転角は45°以下が基本
CUP外転角は45°以下が基本です。それよりも大きい角度だと脱臼するリスクが高いです。つまりCUP外転角が大きい程脱臼リスクは高くなります。例えばCUP外転角が60°だと非常に脱臼のリスクが高いといえます。ほとんどの整形外科医はCUP外転角40°〜45°の間を目指してカップを設置します。

逆にCUP外転角が小さいと脱臼はしにくいのですが、カップの固定力が落ちます。これはインプラントの緩みの原因になりかねません。CUP外転角が小さいと、元々の臼蓋骨とカップ接触面積が少なくなってしまいます。元々の臼蓋骨にカップの面積が多く接触していないと固定力が弱くなるのは想像できますよね。

そのため臼蓋形成不全の患者さんに関しては意図的にCUP外転角を大きくする場合もあります。そうすることでカップと臼蓋骨の接触面積を確保しているのですね。

CUP外転角を50°程に大きくしても臼蓋骨との接触面積が確保できない場合には、腸骨からの骨移植や人工骨等で補填する事もあります。

 

カップの設置って難しいの?
実は、術中の正確なカップ設置は非常に難しいんです。手術中の患者さんの体には清潔なオイフ(布)が全体に掛かっていて身体の全体像が見えませんし、骨盤を固定しているといっても手術中にある程度は動いてしまいます。また手術中は骨だけがハッキリ見えるはずもなく、周囲の軟部組織や出血した血液でとても見づらい状態です。さらに当然変形している場合が多いですから医学書のような綺麗な形をした臼蓋とは異なります。

わずかな術野でカップを正確な角度に設置するのは実は非常に難しいのです。長い執刀経験が必要になってきます。

BHAに関しては臼蓋にカップを設置する必要がないためTHAに比べ手術難易度としてはかなり低いです。これがBHAが研修医の入門のオペと位置づけられている理由です。

THAって一般的な整形外科手術のイメージがありますが、実は非常に難易度の高いオペなんです。執刀医によっては麻酔時間も含めて5時間以上かかる医師もいらっしゃいます。早い医師ですと麻酔も含めて2時間程でオペを完了させる整形外科医もいらっしゃいます。

 

さて、話が逸れてしまいました。

このようにレントゲン写真のみでも脱臼のリスクは読み取れます。

レントゲン画像であればPTの方やOTの方も見る機会が多いと思います。THAにおけるCUP外転角の確認は、脱臼のリスクを把握する上で非常に大切な概念になっています。

受け持ちのTHA患者さんのレントゲンを見てCUP外転角を確認してみましょう。

脱臼のリスクが視覚的に把握できます。

 

次回はインナーヘッドの大きさについて説明していきます。

これもレントゲン情報から視覚的に脱臼のリスクを確認出来ます。