脊髄損傷

 

脊髄損傷においては、損傷レベル(損傷高位)の診断が不可欠です。

【損傷高位とは】

機能が残存している最下位の髄節名で表す

key musclesとkey sensory pointを定めて、機能している筋と知覚の髄節を見極めて損傷高位を診断する。

例えば、Triceps(上腕三頭筋:C7)の筋力がMMT3で、そのすぐ頭側の筋力(手関節背屈筋)が4以上の場合、Tricepsは損傷されていない筋(髄節)として扱い、神経損傷高位はC7と診断する。

【損傷高位診断の方法】

1.   ASIA(American Spinal Injury Association)の分類ー国際的評価法として一般的に広く普及されている。

2.Zancolliの分類ー元々は、手の機能再建術のために作成された分類法で、C5~C8の範囲を細かく分類している。

【ASIA(American Spinal Injury Association)の分類】

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【Zancolliの分類】

この分類法は上肢、手指の機能再建術を行うために、機能が残存する筋に応じて髄節を詳細に分類したもの。手の機能は非常に複雑なため、機能再建術をするには細かい分類が必要になるのは当然である。

ASIAの分類は損傷高位を明確にするため、髄節ごとにザックリと分類しているが、上肢や手指の再建術を行う場合は、より細かい分類が必要になってくるため、Zancolliの分類が生まれたものと言える。

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【Zancolliの分類における最終獲得機能】

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【Frankelの分類】

完全麻痺と不全麻痺の重症度の分類であり、損傷高位の診断をする訳ではない。f:id:uta-huuta-maro-ojyou:20200130142626j:image

4. 改良Frankel分類は麻痺の程度を次のようなA~Eの分類で評価する。A:完全麻痺、B:運動完全(下肢自動運動なし)、感覚不全、 C:運動不全で有用でない (歩行不可)、D:運動不全で有用(歩行可)、 E:正常

 

1.特に症状固定期では、痛覚に比べて触覚は上位レベルの代償を受けやすいため正確な診断が難しい場合がある。そのため痛覚検査による高位判定が最も適している

2. 脊髄損傷の急性期においてみられる脊髄ショックでは、損傷部以下の運動,感覚,反射が一時的に全て消失する。次第にショック期を脱し、脊髄反射が回復し始めるとき、脊髄下位の「球海綿体反射」と「肛門反射」が最も早く回復するため、これらの反射でショック期
の離脱を確認する。
3. バランスの評価は座位保持能力を評価するISMG(International Stoke Mandeville Games) が使用される。
5. 脊髄損傷に特異的な能力障害尺度として脊髄障害自立度評価法がある。
①岩崎 洋 (編) : 脊髓損傷理学療法マュアル, 文光堂, p. 36-50. ②鈴木俊明, 他(編) : Crosslink 理学療法学テキスト 神経障害理学療法学I 脳血管障害, 頭部外傷, 脊髄損傷, メジカルビュ一社, p. 187-191. ③細田多穗, 他(編) : 理学療法ハンドブック, 第3巻, 疾患別理学療法基本プログラム, 改訂第4版, 協同医書出版社, p. 389-393. ④二瓶隆一 他 (著編) : 頸髄損傷のリハビリテーシ 改訂第3版, 協同医書出版社, p. 10-11. 

 

1. 損傷高位がC4 以上の頭値損傷者のことを高位頚髄損傷者とする。

4. 高位頸髄損傷者であっても僧帽筋や胸鎖乳突筋による呼吸補助筋による短期間の自発呼吸を練習することは、気道内の分泌物除去や胸郭拡張練習の効果がある。

チンコントロールでの電動車イス操作

呼気スイッチによるパソコン操作ーC3

BFOーC4,5

トラックボール型マウスーC5

自動車運転、トイレ移乗ーC6B1

マット上での起き上がり(支持物なしで自立)ーC6B2

テノデーシスアクションーC6B2

直角アプローチーC6B1多くが可能

C6B2になるとほとんどの症例が可能

側方アプローチーC6B2 で獲得

C7で習熟度が増す

C6 レベル以上で洋式便座への移動が困難な場合、平面〈フロア)式便座を使う

自己導尿ー男(サイドピンチか指でつかんで)

ーC6A およびC6B1 

自己導尿手技ー女性(ベッドや車椅子にもたれた状態で開脚し、実施)ーC6レベルで一部、 C7レベルで概ね可能となる。上限レベルは、C6B2である。

C5 レベルでは、上肢筋力が不十分なため手圧排尿は困難であり、介助による間欠導尿、叩打、反射排尿の獲得

車椅子のキャスター挙上ーC7一般的に可能

手指屈筋が効くC8で実用的

床から車イスへ移乗ーC6B3:20%、C8B:80%

浴槽への出入りーC6レベルでは困難ーリフター使用の対象

C7レベル以下ではほとんどの症例で可能

C7 レベル以下であれば、両側の長下肢装具を使って平行棒内で立位を維持できるが、実用的な歩行ができるのは L3 レベル以下で、両側短下肢装具と杖を使用する場合である。

 

1. C5の食事動作はフォーク付きカフベルトなどの自助具を手関節固定装具に取り付けスプリングバランサーや BFO を使用して行う。

2. マット上での起き上がりなどが支持物なしで自立するのは C6B2である。

3. 直角アプローチによる移乗動作はC6B1から多くが可能となり始め、C6B2になるとほとんどの症例が可能となる。C6A で直角アプローチによる移乗動作が可能な例は少ない。

排尿の管理や方法は、損傷からの時期、膀胱機能の状態、四肢,体幹機能を考慮して、尿路感染症の防止に努める必要がある。

1. C5 レベルでは、上肢筋力が不十分なため手圧排尿は困難であり、介助による間欠導尿、叩打、反射排尿の獲得を目指す。

2、3. C6A およびC6B1 レベルでは、男性の場合はサイドピンチか指でつかんでカテーテル尿道に入れる事は可能である。

4. 女性の場合は、構造上、男性に比べ尿道口が見えにくいため、尿道や手指の感覚.動きが重要となる。そのため、ベッドや車椅子にもたれた状態で開脚し、実施する。女性の自己導尿手技は、C6レベルで一部、 C7レベルで概ね可能となる。上限レベルは、C6B2である。

5. C7では、概ね可能である。

4. 車椅子のキャスター挙上は一般的にC7で可能となり始め、手指屈筋が効くC8で実用的となる。

5. 側方アプローチによる移乗動作はC6B2 で獲得でき C7で習熟度が増す。

1:C6 レベル以上で洋式便座への移動が困難な場合、平面(フロア)式便座を使う

2:浴槽への出入りはC6レベル(上位損傷)では困難でリフター使用の対象となるが、C7レベル以下ではほとんどの症例で可能となる。

3: C7 レベル以下であれば、両側の長下肢装具を使って平行棒内で立位を維持できるが、実用的な歩行ができるのは L3 レベル以下で、両側短下肢装具と杖を使用する場合である。

4: C7レベル以下では、 車椅子のアームサポートに置いた両手でプッシュアップを行い、両側同時に殿部を後方へ移動することで除圧が可能となる。

5:座位安定性の低下、 肩甲帯、肩関節の筋力や持久力の低下がみられる場合、ポータブルスプリングバランサーを利用した食事動作を検討するが、 C8 レベルではその必要性は低い。

①鶴見隆正, 他(編) : 日常生活活動学·生活環境学第5版, 標準理学療法学(専門分野), 医学書院, 2017, pp 119-135. ②伊藤利之, 他(監) : ADLとその周辺一評価·指導, 介護の実際, 第3版, 医学書院, 2016, pp 99-123.

 

特に第5.6胸髓節よりも高位の脊髓損傷では、膀胱内に尿が許容量を超えて貯留した場合や便秘の場合に、自律神経過反射を引き起こすことがある。自律神経過反射を放置すると、脳出血くも膜下出血を併発することもあるため注意する。
【症状】著明な血圧上昇のほか、徐脈、頭痛、顏面紅潮と著明な発汗、鼻閉、立毛、霧視、筋スパズムなどの症状がある。
【機序】交感神経系の興奮によって血圧が上昇し、頸動脈洞や大動脈弓にある圧受容器がこれを感知し、迷走神経を介して洞房結節に抑制性の司令が送られる。このため徐脈となる。
①千野直一(監) : 現代リハビリテーション医学, 改訂第4版, 金原出版, 2017, pp 286-287. ②江藤文夫, 他(監) : 最新リハビリテーション医学, 第3版, 医歯藥出版, 2016, p. 259.

 

1. 麻痺した膀胱に尿をためる事は、機能回復上有意義である。カテーテルをフリーにできるのであれば500~600 mL を限度に膀胱にためてこれを導尿するようにしていく。

2. 脊髄ショック期には膀胱排尿筋が弛緩し、括約筋が閉塞するため尿閉となる。

3. 腎孟腎炎などでは38度以上の発熱を伴うことが多いが、膀胱炎では少ない。

4. 核上型神経因性膀胱は、S2-3に脊髄の排尿中枢があり、それより上位の損傷(核上型)であることを意味し、反射が残存する。

5. 男性では機能残存C6レベル以下であれば、サイドピンチまたは指で掴んでカテーテル尿道に入れることが可能である。女性では機能残存C7レベルで可能となる。
①岩崎洋(編) : 脊髄損傷理学療法マニュアル, 
文光堂, p. 14-28. ②鈴木俊明·他(編) : Crosslink 理学療神経障害理学療法損傷, メジカルビュー社,  p.171-174. 

 

異所性骨化は、解剖学的に骨が本来存在しない場所に新生骨形成が起こる。筋肉への石灰沈着とは区別される。
1. pHのアルカリ化はカルシウムイオン沈着に有利な一条件となる。

2. 生じやすい部位は、股関節>膝関節>肘関節>肩関節の順番に多い。

3. 受傷後1~4か月に発症することが多い。

4. 自律神経障害によって血管運動が生じないことで関節周囲のうっ血や浮腫が基盤となり、骨化が進行する。

5. 関節周囲に腫脹、発赤、熱感が出現する。
①岩崎 洋(編) : 脊髄損傷理学療法マニュアル, 
文光堂, p. 31. ②鈴木俊明, 他(編) : Crosslink 理学療法学テキスト 神経障害理学療法学I脳血管障書, 頭部外傷, 脊髓損傷, メジカルビュー社, p. 201.